【マンガシナリオ】私を振った先輩が、大学では後輩になって溺愛してくる~保育科の優しい王子様は、暗闇の世界の冷徹な王でした~
第3話


〇読み聞かせサークルが使用している大学内の一室(机と椅子がありミーティングや会議もできるような部屋)


扉の横に『読み聞かせボランティアサークル「よむよむ」』の紙が貼ってある。



苺(教授に質問してたら、遅くなっちゃった……)



苺は部屋に入ろうとしたところを、聖人に呼び止められた。



聖人「入会の書類書いたんですけど、これで大丈夫ですか」



ゆったりとしたニットを着ているが野暮ったく見えずむしろ洗練された雰囲気の聖人が、申込用紙を一枚手に持っている。



苺(聖人くんと同じ位置にホクロ……)



桜城聖人の右の鎖骨にあるホクロに気づき、苺は思わずジッと見てしまう。



聖人「苺先輩?」



心配そうな表情の聖人に顔を覗き込まれて、苺はハッと我に返る。



苺「あ、ごめんねっ。桜城くんの鎖骨にホクロがあるなって思って」



一瞬だけキョトンとした表情をした聖人だが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべてニットの裾をピラッと捲り少しだけ肌を見せた。



聖人「臍の近くにもありますよ、見ます?」

苺「う、ううん、見ない、見ないです」



苺は頬を真っ赤にして首を振った。

遅れてきた苺と聖人がサークルの部屋へ入ると、あっという間に聖人は女性陣に囲まれてしまう。

苺は押し出されるような形で、ののかと日向がいる方へ行く。

日向が聖人の方を見てぼやいた。



日向「すっげーなー、俺なんて子どもにしかモテねぇよ」

ののか「あはは、そうだね」

苺「そういえば一年の時の読み聞かせで、五歳の子にプロポーズされてたっけ」

日向「お前ら笑い過ぎだっつーの」



日向が隣にいる苺の頭を軽くコツンと小突いているのを気にするように、チラッと聖人が視線を向けた。

そんな聖人は、周りの女子たちに話しかけられている。



モブ女子大生1「ねーねー桜城くん、明日土曜日だし、一緒に遊び行かない?」



聖人は申し訳なさそうな表情になった。



聖人「ごめん、女の人と一緒に出かけると、彼女が妬くから行けないんだ」

モブ女子大生2「うわ~、彼女愛されてるね、羨ましい」

モブ女子大生3「桜城くんの彼女って、どんだけすごい人なんだろ。モデルとか女優だったりしそう」



同じ室内にいるので、聖人たちの話は苺たちにも聞こえてくる。



ののか「やっぱ聖人くん彼女いるのか~」

日向「そりゃそうだろ」



苺(桜城くんに彼女……)



苺は胸のあたりがモヤッとしている。

その感覚が不思議で、苺は胸に手を当てた。



苺(なんでだろう、モヤモヤする)



皆が自己紹介をして、次の読み聞かせで使う本の候補を次回のミーティングまでに考えてくることになり、今日の活動は終了。

苺がののかと日向と帰ろうとしていると「日向先輩、途中までご一緒してもいいですか」と聖人が声をかけてきた。



日向「おう、いいぞ」



先日の二次会で打ち解けた様子の聖人と日向。自然な流れで四人で一緒に帰ることになった。



聖人「先輩たちは休日とかも一緒に遊んだりするんですか?」

日向「俺たちはそんなに遊んだりしないかなぁ……」

ののか「苺が土日ともバイト入れてるもんね。ボランティアの日、以外」

苺「うん……」



苺(桜城くんは、土日とかに彼女とデートするのかな……)



チクッと苺の胸が痛む。



聖人「苺先輩はどこでバイトしてるんですか」

苺「『パシオン』っていうカフェと、あと明日からは『ベリーズ』っていう飲み屋さんも』

聖人「ベリーズ……」

日向「は、飲み屋でバイト? 初めて聞いたんだけど」

ののか「私も初めて聞いたー」



日向は心配顔、ののかは興味津々といった様子。



苺「試用期間が終わったら話そうと思ってたの」

日向「苺はただでさえ忙しいのに、なんでバイト増やしたりするんだよ」



日向は少し不満そうに告げた。

苺は小さくため息を吐く。



苺「4月になって出費が多くてさ。教科書代とか、二年になったから新歓コンパでは多く払わないとだし」

日向「教科書代くらい貸すって。それにコンパ代だって。飲み屋のバイトじゃ帰り遅くなって危ないだろ」

苺「友達とはお金の貸し借りしない。それに飲み屋は家から自転車で行ける距離で夜でも人通りのある明るい道だから大丈夫だよ」

日向「ほんと気をつけろよ……」



心配そうな顔をしている日向の隣で、聖人は何か考え事をしているような表情をしている。



聖人「苺先輩、お酒飲んだら自転車には乗れませんよ」

苺「店員だからお酒は飲まないよ」



笑って答える苺に対して、聖人がため息を吐く。



聖人「苺先輩はもう少し危機感を持ちましょうね」

日向「そうだよな聖人、もっと言ってやってくれ」

聖人「まずはお酒を飲まないようにすること。あとは……」



話しながら聖人は自分のスマホを手にする。



聖人「万が一飲んだら連絡ください、車で迎えに行くんで」

ののか「えー、聖人くん車持ってるの? 今度乗せてよ」

聖人「緊急時以外は彼女しか乗せないんでダメです。苺先輩、連絡先交換するからスマホ出してください」



そう言われて、スマホを取り出そうと苺は慌ててバッグを開ける。



ののか「私とも連絡先交換しようよ」



苺(ののか積極的だな……本気で桜城くんのことが好きなのかも)



初恋の人と同一人物かもしれない桜城のことをののかが好きになることについて、苺はなぜか不安になってしまう。

素直に応援できない自分に苺は戸惑っている。



聖人「個人的な連絡先交換も、緊急時以外彼女としかしません」

ののか「え~、どんだけ彼女のこと愛してんのよ~」



聖人がスマホを操作して苺と連絡先を交換した。



苺(桜城くんの連絡先……)



スマホを眺めて、苺は感慨にふけっている。



苺(中一の時はスマホを持ってなかったから、聖人くんとは連絡先交換できなかったな……)



聖人「絶対に連絡してくださいね」



そう聖人に告げられて、苺の胸がドキンと音を立てた。





○苺のバイト先、個人経営のカフェ『パシオン』(土曜日の午前~夕方)


カフェのエプロンの紐をキュッと結び、苺がキリッとした表情をしている。



苺(よし、今日もがんばろ!)



苺が真面目に手を抜かず接客などで奮闘している姿(時計の表示で時刻の変化を示しながら)。



日が傾いてきて六時になり、苺はカウンター内にいる店長へ声をかける。

今は店内に、店長と苺のふたりきり。



苺「店長、そろそろ上がりますね」

店長「お客さんもちょうどいなくなったから、このあとここで夕食でもどうだい、メニューの中からなんでも好きなもの作るよ」

苺「いえいえ、そんな図々しいことできません」



苺は恐縮しつつ真面目に答えた。



店長「いいよいいよ。それにさ、明日も朝、今日と同じ時間からバイトに入ってもらってるし、ここ上が住居で空き部屋もあるから泊まっていけば。お母さん入院中でいないんでしょ」



自分へ向けられている店長のねっとりとした欲を含んだ視線に気づかず、苺は答える。



苺「今日はこのあと、違うバイトがあるんです」

店長「え、今から? そのバイトが終わったら夜中過ぎちゃうんじゃないの」

苺「ご迷惑をかけないように明日のバイトももちろんしっかりやりますので」



苺はエプロンを外しながら話している。



苺「それじゃ店長、また明日よろしくお願いします、お疲れさまでした」



一礼してから苺は荷物をおいてある控室へと入っていった。





〇超高級キャバクラ(高級ニュークラブ)『ベリーズ』


キャストの控室で大きな化粧鏡の前に座っている苺。

すぐそばに先輩キャバ嬢で二十五歳の千愛(ちあ)が立っていて、苺に化粧をしている。



千愛「普段お化粧してないんだね。肌ツルツルのピカピカで素材いいし」



ご機嫌で楽しそうにベースメイクを続ける千愛。



千愛「いじりがいがあって変身させるの楽し~」



苺の髪に編み込みをしながら千愛は話し続けている。



千愛「今日は私の隣についてもらう感じになるけど、苺ちゃんは接客業の経験ある?」

苺「カフェのバイトは一年くらいしてますが、お酒を提供するお店で働くのは初めてです」

千愛「うちの店、基本はキャバ嬢経験者しか採用しないんだけどね。店長がピンッときたらしいよ、苺ちゃんみたいな愛されキャラならいけるって」

苺「そ、そんな風に言ってもらえるなんて、恐縮です……」

千愛「まじめだなぁ。そんなところも可愛いねー」



千愛が苺にポイントメイクを施していく。



千愛「できた~」



苺(魔法みたい……)



苺「千愛さん、ありがとうございます」

千愛「どういたしましてー」



髪を一部編み込んでいて、化粧もしてもらい、苺はいつもよりも輝きを放っている。

体の線が出るシルエットの服で子どもっぽくはないが、庇護欲をかきたてて可憐に見える衣装を着ている苺。

露出は少ないけれど、それでも普段の苺よりはセクシーな姿だった。

控室内で、他の女性キャストたちが話している。



モブキャバ嬢1「今日、優聖(ゆうせい)さん来るんだって」

モブキャバ嬢2「忙しいからめったに来ないのに? ガセじゃないの?」

モブキャバ嬢1「店長が言ってたから間違いないって」

モブキャバ嬢2「でもVIPルーム入っちゃうから、どうせ話せないよね」

モブキャバ嬢1「私は通りすがりに一目見られればしばらく生きていける。会えるかな~、化粧直しとこ~」



苺は会話の意味がわからずに不思議そうな顔をしている。



苺「優聖さん……?」

千愛「この店のオーナーよ」

苺「店長さんとは違うんですか」

千愛「店長はこの店を任されているだけ。優聖さんは雲の上のような存在ね。このあたりのお店は、全部優聖さんが所有しているもの」



苺は、ほぅ……、とため息を吐く。



苺「すごい方なんですね……」

千愛「容赦ない人らしくて、冷徹な王だとかいって店長は怖がってるの」

苺「そうなんですか、緊張してきました」

千愛「ふふ、私たちは一目見るくらいだろうから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」



気品のあるシャンデリアが煌めき、高級な調度品がセンス良く配置された店内。

富裕層の客が足を運ぶような超高級なキャバクラのソファに座り、苺は緊張していた。



苺(面接の時は事務所だったから、こんなに高級な場所だったなんて知らなかった……)



苺の隣で千愛がお酒を作り接客している。



苺(ちょっと上品な居酒屋くらいの雰囲気かと思ってたけど、全然違う……)



千愛「野島様が、苺ちゃんにもどうぞって」

苺「あ、ありがとうございます」



苺(私なんかがこのお店にいていいのかな……)



出された飲み物を口にする苺。



苺(あ、これお酒……)



突如、華やかな店内の空気が、ピキッ、と凍りついたように冷たくなった。

中学時代の聖人を大人にしたような感じの人物だが桜城聖人の優しい雰囲気とは違うダークな雰囲気の黒髪の男性が、金髪の羅威を連れて立っている。

あまりにも聖人と桜城の面影がある優聖を見て、苺は驚いた。



苺(聖人くん……?)



チラ、チラと優聖の方を見ながら、苺は自分でも気づかないうちにグラスの中身を飲み干してしまう。



ナンバーワン嬢「いらっしゃい、優聖(ゆうせい)さん」



この店一番人気の嬢が声をかけ、他にも黒服のボーイが「優聖さん、こちらへどうぞ」と声をかけている。

中学の時の文化祭で、バンドのボーカルで「優聖」と歓声を浴びていた聖人の姿が、なぜか苺の脳裏に浮かんだ。

ナンバーワンの嬢とともにVIPルームへ続く扉の向こうへ足を踏み入れる優聖。

思わず苺は「待って」と立ち上がっていた。

そのせいで苺は立ち眩みを起こして意識が遠のいていく。



苺(そういえば夕飯食べてなかった……空腹で疲れてるのにお酒飲んだりしたから)



今日の朝からの行動が走馬灯のように苺の頭に浮かんでいく。



苺(早朝から課題をやったあと病院へお見舞いに行ってバイトして……)



苺は目の前が暗くなっていく時に、苺っ、と自分の名前を呼ぶ聖人の声が聞こえたような気がした。





〇超高級マンションの寝室(翌朝)


目が覚めた苺は窓の外が明るいことに気づく。



苺(バイトなのに寝過ごしたかも!)



慌てて苺はガバッと上半身を起こした。

この時にかけていた毛布がずり落ちて、苺の上半身下着姿が現れる。

自分の家ではなく広い室内にいることに気づき、ここどこ、と戸惑う苺。

モゾ……、と隣で動く気配を感じて視線を向けると、そこにはキラキラと輝いているように秀麗な聖人の寝顔が。

しかも聖人は上半身裸で、程よく筋肉のついた腕で無意識に苺の腰を抱き寄せようとしていた。

苺は驚きのあまり言葉も出ずに目を見開いている。




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