【マンガシナリオ】私を振った先輩が、大学では後輩になって溺愛してくる~保育科の優しい王子様は、暗闇の世界の冷徹な王でした~
第4話


〇学部棟の裏の非常階段そば(月曜日の昼休み)


学部棟の裏のちょっとした段で、建物を背景に座っている苺。

苺が座っている所のななめ後ろには非常階段から外へと続く扉がある。

ロダンの考える人に似たポーズで、苺は考え事をしている。



苺モノ『昨日、起きたら下着姿で……半裸の男の人が隣で寝てて……』

苺モノ『バイトに行かなきゃって言ったら運転手付きの高級車で送ってくれた……』

苺モノ『金髪の運転手さんに「優聖さん」って呼ばれてたけど……』



ズーン、と黒線ができるくらい落ち込む苺。



苺モノ『ベリーズで気を失ったあと、何があったのか覚えてない……』

苺モノ『桜城くんと似てたけど、動揺してて鎖骨のホクロとか確認しなかったから同一人物なのか分からないや……』

苺モノ『もっとよく見ておけばよかったな、そういえば桜城くんは臍の近くにもホクロがあるって言ってたっけ……』



もわもわもわ……と、上半身裸の桜城聖人の姿を想像してしまい、沸騰したように苺の顔が赤くなる。

その直後、非常階段から外へとつながる扉が内側から開いたので、苺は飛び上がりそうなほど驚いてしまった。

扉を開けて外にやってきたのは桜城聖人だった。



聖人「こんな所で何してるんですか?」

苺「桜城くんこそ」

聖人「俺は落ち着ける所を探したくて。ここいいですね、静かで」



聖人は話しながら苺の隣に座った。



聖人「もう昼は食べたんですか? 日向先輩とののか先輩と一緒じゃないの珍しいですね」

苺「お腹空かないから、お昼はいつも食べないの」



そういったとたん苺のお腹が、ぐぅぅううう、と大きな音を立てた。

くくく……と顔にこぶしを当てて、聖人が笑っている。

そしておいしそうなサンドイッチが入った包みを苺に差し出した。



聖人「作りすぎたんで、食べてもらえると助かります」

苺「桜城くんが作ったの?」

聖人「そうです、あ、もしかして他人の手作りがダメな感じですか?」

苺「大丈夫。ありがとう、いただきます」



お礼を言ってサンドイッチを受け取り、一口食べて「おいしいぃぃいい」と目を輝かせている苺。

その姿を見て、聖人が嬉しそうに笑みを向けている。

完食して、苺は両手を合わせた。



苺「ごちそうさまでした」

聖人「なんか苺先輩って、かわいいですね」



よしよしと苺の頭を聖人が撫でる。



聖人「ふたりだけの時は、苺って呼んでもいいですか」

苺「私の方が先輩なんだから子ども扱いしないでほしいな」

聖人「聖人」

苺「え?」

聖人「苺の方が先輩なんだから俺のこと聖人って、呼び捨てでいいですよ」

苺「な、名前で呼び捨てなんてしないよ。まわりにどう思われるか」

聖人「日向先輩の事は、呼び捨てにしてるじゃないですか」



ぷ、と聖人が頬を膨らませた。

初めて見る可愛らしい聖人の表情に、苺はキュンとときめく。



苺「日向は高校も一緒で昔からの知り合いだもん」

聖人「高校か……」



落ち込んだように聖人が肩を落とす。



苺「桜城くん……?」

聖人「俺の方が昔からの知り合いだよ、苺が生まれた頃から知ってる」



その言葉を聞いて、苺が目を見開く。



苺「やっぱり、聖人くんなの……?」

聖人「キスだって、したよな。忘れちゃった?」

苺「忘れるわけない……」

聖人「目、つむって」



言われたとおりに苺が目をつむると、聖人は触れるだけのキスをした。

唇が離れたあとも苺は頬を真っ赤にしている。



聖人「キスくらいで真っ赤になってんの? 昨日、一緒に朝を迎えた仲なのに」

苺「い、一緒に朝を、って……桜城くんが、聖人くんで、優聖さん……?」

聖人「夜のこと憶えてる? まさかあんな事になるなんてね」

苺「あ、あんなことって!? 何かあったの!?」



聖人が苺に悪戯っぽい笑みを向ける。



聖人「何があったと思う?」



苺(意地悪だ……)



聖人「教えてほしい?」

苺「ほしいよ!」



再び聖人が苺の頭を撫でた。



聖人「教えるからベリーズの仕事は辞めような」

苺「だめ。前に言ったでしょ? 4月は教科書代とか出費が多いんだから」

聖人「それならさ。住み込みで俺のごはん作ってよ。バイト代は出すから」

苺「住み込みで……?」

聖人「せめて、にの先生(苺の母親)が入院している間だけでも」



苺(彼女でもないのに、甘えたりしていいの……?)



そう考えた途端、前に聖人が周囲に言っていた、彼女を大切にしている発言の数々を思い出してしまい苺は悲しくなる。



苺「彼女がいるのに、優しくなんてしないでよ」

聖人「彼女なんていない」

苺「ウソ、前に言ってたでしょ。彼女が妬くからとか」

聖人「そんなの、誘いを断るために言っただけだろ」



苺(聖人くん、彼女いないんだ……)



自分でも理由は分からないけれど、苺は安堵の息を吐いた。

聖人が少しだけ意地悪な表情で、苺の顔を覗き込む。



聖人「もしかして、恋人がいると思って妬いたのか?」

苺「別に、そんなことない」

聖人「俺は妬いたけどね」

苺「なんで?」



心底不思議そうな表情になる苺。



聖人「青空日向と仲がいいから。付き合ってるのか?」

苺「付き合ってないよ。日向は友達」

聖人「ふーん、それじゃ遠慮する必要ないんだ。やっぱご飯作ってよ」



突然、苺のスマホが鳴り始めた。



苺「バイト先からだ。ごめん、でるね」



聖人(ベリーズなら先に俺に連絡がくるから。カフェの方か)



苺「はい……はい……大丈夫です。それじゃ今日、8時半に行きます」



電話を切った苺が聖人の方へ顔を向ける。



苺「ベリーズの仕事は辞められそう」

聖人「急に、なんで?」

苺「カフェの店長が、平日に閉店後の片付けと翌日の仕込みのバイトをさせてくれるって。お母さんのお見舞いが終わった後に来てくれればいいからって言ってくれて」

聖人「ふーん、店長って、男?」

苺「うん」

聖人「他にもバイトの人、一緒にいるの?」

苺「いないと思う。閉店前はいつも店長ひとりだから」



それを聞いて、聖人は苺が手に持っていたスマホを掴むと、着信履歴にかけ直した。

突然の行動に苺はあっけにとられている。



聖人「苺の彼氏です。バイトを紹介してもらう必要はないんで。今日は行きません」



聖人が電話を切った瞬間、苺はハッと我に返った。



苺「なに勝手なことしてるの!」

聖人「閉店後にふたりきりって下心があるに決まってるだろ」

苺「奥さんもいる人だよ。私なんかが恋愛対象になるわけないじゃん」

聖人「自分がイイ女だってことに気づいてねーのかよ」

苺「聖人くんのバカ! 私がイイ女なんて、こんな時に冗談言わないでよ」



そう言って、苺は聖人を残し走り去っていく。





〇苺の母が入院している病院


苺が病室に入ると、母が男性と話しているところだった。

ベッドの横に置いてある椅子に座って話していた男性は三十代後半で銀縁眼鏡をかけており、切れ長の目で秀才タイプのイケメン。



苺(誰だろう……)



苺の姿に気づいた母が、苺へ声をかける。



苺の母「こちら姫宮さん。お父さんとは生前から懇意にされていたようでね。お父さんが亡くなたった後、保育所の運営をしてくださっているの」

姫宮「お嬢様がいらしたようなので、ご報告の続きは次回にした方がよさそうですね」



腰を浮かせた姫宮に対して、苺が声をかける。



苺「いえ、大丈夫です。私8時までいるからたっぷり時間があるので。売店にでも行ってきます」



売店で苺が買い物をしている描写。
その後病室に戻り、姫宮が苺と苺の母に一礼して退室する描写。
苺が母親と病室で会話をしている描写。



高級車の後部座席に座っている聖人(優聖として夜の繁華街を支配しているダークな雰囲気の時の服装)が、スマホの着信に気づいて通話。



聖人「病状はどうだった」



ところ変わって別の高級車内、後部座席に座って電話をしている姫宮。



姫宮「悪化はしてないようです。言われた通り保育所の状況も報告してきました」



聖人が電話で話しているシーンに切り替わるが、会話は聞き取れない。再び姫宮のシーンへ。



姫宮「私が帰る時にはまだいました。ああ、そういえば面会終了時刻までいるような事を言っていましたね」





〇苺の自宅がある雑居ビル(夜)


苺が雑居ビルの集合ポストを確認している。

「こんばんは」と声をかけられた苺が振り返ると、バイト先のカフェの店長が立っていた。

近い位置に立っていたため、驚いた苺の体がビクッと震える。



苺「こ、こんな時間にどうしたんですか店長、あ、もしかして私、忘れ物でもしてましたか」



ガシ、と店長に手首を掴まれて思わず苺は、ひっ、と声を上げた。



店長「いま家に誰もいなくてお金が必要なんだろう? 僕なら力になれるから。とりあえず家で話をさせてもらってもいいかな? いいよね」



恐怖で苺は動けずにいる。

すると、低く冷たい声が響いた。



聖人「なぁ、なにやってんのおっさん」



今にも人を殺めそうな殺気を放つ聖人のオーラに気圧されて、店長は苺から手を放す。

そして「なにもしてないです。じゃ、また日を改めて来るから」、と言い残し店長は去っていった。

腰が抜けたように、へたり、と苺は座り込んでしまう。



聖人「また来るってよ」



そう言いながら、聖人は苺の隣でしゃがんだ。※苺はペタンコ座り、聖人はヤンキー座り。



苺(怖い……けど……他に帰る場所なんてない……)



苺の瞳からポロポロと涙が落ちていく。

聖人は小さくため息を吐くと、しゃがんだ姿勢のままスマホを取り出して電話をかけた。



聖人「羅威、ちょっと躾けてほしい奴がいるんだけど」



苺(躾け? なんか物騒な感じ……)



聖人「『パシオン』っていうカフェの店長で……」



苺(これ聖人くんにさせちゃダメなやつだっ)



苺はスマホを持っている方の聖人の腕を抱きつくように掴み、やめて、と訴える感じで首を横に振っている。

聖人は小さくため息を吐くと電話を切った。



聖人「やっぱ俺のとこに来いよ」

苺「でも男の人の家で一緒に住むなんて……」

聖人「俺と一緒にいてもキス以外何もなかっただろ。中学の時もこの前も」



思わず苺はキョトンとしてしまう。



苺「そうなの? じゃあ、なんで服……」

聖人「暑い暑いって苺が勝手に脱いで、水のませようとしたら俺にコップの中身をかけたんだよ」

苺「え……うそ……ごめんね」

聖人「これでもう問題ないよな」



苺はしゃがんだ姿勢のまま、ブンブンと首を横に振った。



苺「でもやっぱりダメだよ」

聖人「なんで?」

苺「なんか聖人くん逞しくなってて上半身裸なの見た時ドキドキしちゃったし」



聖人(ドキドキ……)※苺の発言を聞いてちょっとだけ嬉しそうな表情。

でもすぐに意地悪な表情に変わる。



聖人「もしかして、何かされるんじゃないかって期待してんの?」

苺「き……そんなんじゃないからっ!」

聖人「じゃ、決まりだな」



しゃがんだ姿勢のまま苺の手をとり、聖人が優しい笑みを向ける。



聖人「苺が怖がったり嫌がったりするような事はしないから、おいで」

苺「……うん」



苺は素直に甘えられず顔を真っ赤にして俯いている。




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