この音が、君に届くなら
音楽室を出たのは、いつもより遅い時間だった。
空には夕焼けが残り、校舎の影が長く伸びている。
「じゃ、俺は部活寄ってから帰るわ」
そう言って律が手を振る。
「また明日、よろしくね」
「うん。おつかれさま、桐原くん」
「おつかれ」
奏もそれだけ言って、ふっとそっぽを向いた。
律が駆け足で階段を下りていくのを見送ったあと、澪と奏は校門へと向かって歩き出す。
しばらく、ふたりの間には言葉がなかった。
けれど、それは気まずさじゃなくて、心地よい沈黙だった。
「……あの曲、ちゃんと最後まで作ったら、譜面見せて」
不意に奏が口を開いた。
「えっ」
「さっきの続き、気になる。……ギター合わせてみたい」
その言葉に、澪の胸がまた少し跳ねた。
「うん……わかった。頑張ってみる」
奏は前を向いたまま、ほんの少しだけ口元をゆるめたように見えた。
(この人、やっぱりちょっとわかりにくいけど……)
(でも、ちゃんと伝えようとしてくれてる)
坂を下りる途中、ふとしたタイミングでふたりの手がすれ違う。
触れるわけでもなく、避けるでもなく――
それでも、澪の心は、わずかに熱を帯びていた。
空には夕焼けが残り、校舎の影が長く伸びている。
「じゃ、俺は部活寄ってから帰るわ」
そう言って律が手を振る。
「また明日、よろしくね」
「うん。おつかれさま、桐原くん」
「おつかれ」
奏もそれだけ言って、ふっとそっぽを向いた。
律が駆け足で階段を下りていくのを見送ったあと、澪と奏は校門へと向かって歩き出す。
しばらく、ふたりの間には言葉がなかった。
けれど、それは気まずさじゃなくて、心地よい沈黙だった。
「……あの曲、ちゃんと最後まで作ったら、譜面見せて」
不意に奏が口を開いた。
「えっ」
「さっきの続き、気になる。……ギター合わせてみたい」
その言葉に、澪の胸がまた少し跳ねた。
「うん……わかった。頑張ってみる」
奏は前を向いたまま、ほんの少しだけ口元をゆるめたように見えた。
(この人、やっぱりちょっとわかりにくいけど……)
(でも、ちゃんと伝えようとしてくれてる)
坂を下りる途中、ふとしたタイミングでふたりの手がすれ違う。
触れるわけでもなく、避けるでもなく――
それでも、澪の心は、わずかに熱を帯びていた。