この音が、君に届くなら
夜、澪の部屋。
机の上には五線譜ノートとシャーペン。
そして、さっきまで聴いていたスマホのイヤホンが転がっている。

(……ギター合わせてみたい、か)

奏の声が、頭の中で何度も繰り返される。

(あんなふうに言ってもらえるなんて、思ってなかった)

もともと、人に何かを求めるのが得意じゃなかった。
だから自分の音が誰かの手の中に入っていくのが、少し怖かった。

でも――

(悪くなかった、な)

三人で音を出した時間。
ただ楽しいだけじゃなくて、「もっと上手くなりたい」と自然に思った。

譜面に視線を落とす。
まだ途中までしか書けていない、あの旋律。

(この続き、ちゃんと完成させたい)

なぜか、それが“責任”のようにも、“誰かへの約束”のようにも思えていた。

澪はペンを取り、静かにノートの上に線を引く。

(次はどんな音を入れよう)

ふと浮かんだのは、律の軽やかなビート。
そして奏の、まっすぐなギターの音色。

(ふたりの音が重なって、私の音がそこにある――)

それって、なんだかバンドっぽいなって。

澪は思わず、ひとりで小さく笑った。

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