この音が、君に届くなら
翌朝。
ホームルームが終わった後の教室で、澪は律に声をかけられた。

「昨日の曲さ、タイトルとか決めてる?」

「え……まだ」

「そっか。じゃあ、そのうち“バンド名”も考えないとな」

「バンド名……」

澪は、少し戸惑ったように首をかしげた。

「だって、せっかくオリジナルやるんだからさ。
 “〇〇の曲”って呼べたほうがかっこよくない?」

「……たしかに」

そのやり取りを聞いていた奏が、廊下から戻ってきて何気なく口をはさむ。

「名前を決めるのは、結成したってこと?」

「そうじゃないの?」
律が笑いながら言った。

「俺はもうバンドのつもりだったけど。違った?」

奏は一瞬だけ考えるように目を伏せ、それから静かに言った。

「別に。否定する理由はない」

「お、乗り気じゃん」

「乗り気じゃない。ただ、成り立ってるなら、それでいい」

そう言いながらも、奏の声にはどこか柔らかさがあった。
律が笑って澪の方に向き直る。

「じゃあさ、今度みんなでバンド名考えよう。放課後、音楽室でミーティングな」

「ミーティング……?」

「そう。音出さなくても、話し合うのも大事」

「……うん」

まだ不思議な感覚だった。
でも確かに、“わたしの曲”が“みんなの曲”になっていくのを感じていた。
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