【シナリオ】色に触れる、青に歩く
◇ 第14話『光の差す場所へ』

(春海)

夢が近づくって、もっと嬉しいことだと思ってた。

でも、目の前に来た瞬間、心がざわつく。

「この場所に、私がいていいの?」
「真白さんと、並んで歩けるの?」

初めて、私の中に“自信のなさ”が、影を落とした。


◇春海、企業とのコラボ決定

⚪︎地元の工芸系ブランド「hibi」が、春海の布に興味を示し、コラボ企画を持ちかける。

ディレクター:
「“静かな光”って、あなたの作品そのものですね。
 私たちの新作ラインで、スカーフやランプシェードに展開したいんです」

⚪︎春海は、言葉にならない驚きで呆然とする。

春海:
「わ、私なんかで……大丈夫でしょうか……」

ディレクター:
「“私なんか”って言葉、似合いませんよ。
 あなたの色には、人の心を止める力がある。
 本物を持ってる人だけが、言われる言葉です」

⚪︎名刺を握りしめた手が震える。
嬉しさと怖さが、同時に押し寄せる。



◇真白、原稿完成

⚪︎真白は図書館の窓際で、初回連載の原稿を仕上げる。
タイトルは《青を歩く》第一話「境界線に咲く花」。

真白(心の声):
「春海さんと過ごした時間、彼女の布に触れた記憶、
 その全部を、“言葉の染料”にして書いた」

⚪︎編集部からの返信は上々。

編集者:
「これ、読者の心に“後味”が残る文章だね。
 たぶん、“人生の陰影”を知ってる人にしか書けない」

⚪︎けれど、ふとスマホを見ると、春海からの返信が来ていない。

真白(不安げに):
「最近……少し、距離を感じる。
 俺が書くことで、何かプレッシャーになってる?」



◇春海の揺れ

⚪︎春海の工房にて。
企業コラボの試作に取りかかるが、手が止まる。

春海(心の声):
「なんでだろう。真白さんと同じように“認められた”はずなのに……
 どうして、こんなに怖いの」

⚪︎スマホを手に取り、真白からのメッセージを見る。

「春海さん、今日も作品づくり、頑張ってね。
新作、楽しみにしてる」

⚪︎画面を見つめたまま、ふっと小さく笑ってしまう。

春海(小声で):
「真白さんは、前に進んでるのに……
 私はまだ、“私のまま”でいいのか、不安になる」


◇学食テラスでの対話

⚪︎夕方。大学の学食テラス。
春海が真白を呼び出し、スカーフの試作品を見せる。

春海:
「これ……初めて“商品として”染めた布。
 企業の人に、“この布に惚れた”って言ってもらえたの」

真白:(目を輝かせ)
「……すごい。本当に、春海さんの布は、心に優しい。
 ちゃんと、“伝わってる”んだ」

⚪︎一瞬、春海の顔が曇る。

春海:
「……でも、なんかこわくて。
 夢が“現実”になるほど、
 “今の自分”じゃ足りない気がして」

⚪︎真白はそっと、春海の手をとる。

真白:
「足りないなんてこと、ない。
 春海さんの“今”が、もう十分すぎるくらい素敵なんだ。
 それに……俺も、怖いよ。
 今書いてる文章が、本当に届くのか、自信なんてない」

⚪︎ふたりはゆっくりと目を合わせ、
どこかホッとしたように微笑み合う。



◇新しい登場人物

⚪︎そのとき、学食の奥から1人の男性が歩いてくる。
長めの黒髪、メガネ、黒の麻シャツ——どこか“アート系”の雰囲気。

男性:
「……君が春海さん? “hibi”で一緒になる予定の、照井って言います。
 僕、今回のテキスタイルデザイン全体の監修を任されてて——」

⚪︎春海は驚いたように顔を上げる。

照井:
「正直、作品の“湿度”に惹かれた。
 ……よかったら、コラボの進行、一緒にやっていかない?」

⚪︎真白が、その会話を少し遠くで見ている。
表情は柔らかいままだが、その目には、
ほんのわずかな“胸騒ぎ”が走っていた——。



(真白)

春海さんの世界に、
俺の知らない“誰か”が触れてくる。

それは、彼女が“成長してる証”だってわかってる。
でも、それでも……
俺の手は、今より強く彼女を守りたがっていた。
 
< 14 / 15 >

この作品をシェア

pagetop