湿気た夜を齧る
邂逅
俺がコンビニから出てくると、止めてたチャリの近くに喧嘩してるヤツらがいた。濁った空気とうるさい声で一気にテンションが下がる。あからさまに嫌な顔をして、遠回りしてチャリに近づこうと歩く。
「第一お前みたいな小娘はなぁ、こんな薄汚れたことしなきゃ稼げないんだよ!人の善意に生かされてるヤツらが舐めた口を聞くんじゃない!」
「私に死ねって思ってんなら最初から金出すなよ、最っ高に無駄遣いしてんなぁ」
「無駄にさせたのはお前だろ?!人の金をなんだと思ってんだ!」
あーあ、あのパパ活女子、何かヘマしたな。でもこの感情を一方的にぶつけられる感覚、俺にも身に覚えがある気はした。不思議な既視感があるようなないような、そんな感じ。
「はいはい、どうせ金かければ手に入るだろうって思ってたんでしょ?お粗末なテンプレ思考すぎてまじウケるわ」
「お前ほど粗末な思考じゃない!従順であれば儲かるってことも分からないのか!」
「じゃあ篠くんも人件費が増えるの、従順に見守ってたら良かったじゃん」
突然、おじさんが黙る。展開が気になるけど俺ももうすぐチャリにありつける距離まで来てはいるし、とっととこんな場所離れる他ない。
「俺の功績を馬鹿にするなぁぁぁ!!」
おじさんが何かを投げた音がした。けど女子は「あぶね」と他人事のように呟い…
ガッ
「は?痛った…」
突如、思考を妨げる衝撃が側頭部に走った。視線を下げると、鈍い光を放つライターが転がっている。
「ちょっと篠くん何やってんの?」
「ぁ、お、お前が…!」
俺がライターを当てられた箇所に触れると、その手には軽く血がついた。
「うわ、最悪…投げてきたヤツは?」
「こいつ〜」
「ぁあ、あ…お、俺と、お前らじゃ、命の価値が違うんだよぉ!」
吐き捨てるように叫び、おじさんは走り去ってしまった。
「……最悪。」
「ふっ、あはは、やば……あっ、おにーさん、無事?いや、うん、顔色とかは別に…悪くないから大丈夫じゃない?」
「心配、しないの?」
「いやしてるけどさ、面白すぎない?リアルにドラマじゃんよ、ははっ」
女子はしばらく笑いをこらえるのに必死そうで、俺はそれが物珍しくて、観察するように、ただ見ていた。震える指先を握って隠して、笑うことに無理やり自分を支配させてるみたいだ。
「性格終わってんねアンタ…」
「まあそれが売りなんで?人生楽しけりゃ勝ちよ」
「変なやつ。感情ごちゃ混ぜすぎだろ…」
「羨ましいって?」
「言ってねえ。」
やけに上機嫌な女子は、そんな返事ひとつにもまた爆笑していた。その拍子に偶然、金色のヘアピンが街灯の光を反射して目を刺す。その攻撃的な錯覚と女子のテンションにまだまだうんざりさせられながらも、でも、この遭遇は悪いことだけじゃなさそうだって気づいてた。
「……名前は?」
「通報でもする気?まあそれもそれでいいなぁ。私は長月繭理。」
「御影燈夜。アンタ、頭いいだろ?」
「せいか〜い。急に褒めてくんじゃん。もしかしてお前も遊びたい?」
「そんなんごめんだね。…でも、話したいって思える女子は久々に見た。」
名乗る間、互いに目を逸らさなかった。宣戦布告みたいなのに、でも、心を確かに掴んでくる「何か」を見つけられた気がした。
〇
繭理の毒気ある眼光と燈夜の感嘆混じりのため息が、じめじめとした夜の始まりの中で静かに交わっていた。
「第一お前みたいな小娘はなぁ、こんな薄汚れたことしなきゃ稼げないんだよ!人の善意に生かされてるヤツらが舐めた口を聞くんじゃない!」
「私に死ねって思ってんなら最初から金出すなよ、最っ高に無駄遣いしてんなぁ」
「無駄にさせたのはお前だろ?!人の金をなんだと思ってんだ!」
あーあ、あのパパ活女子、何かヘマしたな。でもこの感情を一方的にぶつけられる感覚、俺にも身に覚えがある気はした。不思議な既視感があるようなないような、そんな感じ。
「はいはい、どうせ金かければ手に入るだろうって思ってたんでしょ?お粗末なテンプレ思考すぎてまじウケるわ」
「お前ほど粗末な思考じゃない!従順であれば儲かるってことも分からないのか!」
「じゃあ篠くんも人件費が増えるの、従順に見守ってたら良かったじゃん」
突然、おじさんが黙る。展開が気になるけど俺ももうすぐチャリにありつける距離まで来てはいるし、とっととこんな場所離れる他ない。
「俺の功績を馬鹿にするなぁぁぁ!!」
おじさんが何かを投げた音がした。けど女子は「あぶね」と他人事のように呟い…
ガッ
「は?痛った…」
突如、思考を妨げる衝撃が側頭部に走った。視線を下げると、鈍い光を放つライターが転がっている。
「ちょっと篠くん何やってんの?」
「ぁ、お、お前が…!」
俺がライターを当てられた箇所に触れると、その手には軽く血がついた。
「うわ、最悪…投げてきたヤツは?」
「こいつ〜」
「ぁあ、あ…お、俺と、お前らじゃ、命の価値が違うんだよぉ!」
吐き捨てるように叫び、おじさんは走り去ってしまった。
「……最悪。」
「ふっ、あはは、やば……あっ、おにーさん、無事?いや、うん、顔色とかは別に…悪くないから大丈夫じゃない?」
「心配、しないの?」
「いやしてるけどさ、面白すぎない?リアルにドラマじゃんよ、ははっ」
女子はしばらく笑いをこらえるのに必死そうで、俺はそれが物珍しくて、観察するように、ただ見ていた。震える指先を握って隠して、笑うことに無理やり自分を支配させてるみたいだ。
「性格終わってんねアンタ…」
「まあそれが売りなんで?人生楽しけりゃ勝ちよ」
「変なやつ。感情ごちゃ混ぜすぎだろ…」
「羨ましいって?」
「言ってねえ。」
やけに上機嫌な女子は、そんな返事ひとつにもまた爆笑していた。その拍子に偶然、金色のヘアピンが街灯の光を反射して目を刺す。その攻撃的な錯覚と女子のテンションにまだまだうんざりさせられながらも、でも、この遭遇は悪いことだけじゃなさそうだって気づいてた。
「……名前は?」
「通報でもする気?まあそれもそれでいいなぁ。私は長月繭理。」
「御影燈夜。アンタ、頭いいだろ?」
「せいか〜い。急に褒めてくんじゃん。もしかしてお前も遊びたい?」
「そんなんごめんだね。…でも、話したいって思える女子は久々に見た。」
名乗る間、互いに目を逸らさなかった。宣戦布告みたいなのに、でも、心を確かに掴んでくる「何か」を見つけられた気がした。
〇
繭理の毒気ある眼光と燈夜の感嘆混じりのため息が、じめじめとした夜の始まりの中で静かに交わっていた。