小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第30話 染み入る雫(3/6)


 シャオレイが立ち去ったあと、しばらくしてから年老いた宰相が静かに現れた。
 白髪《しらが》の多い髪に、ひげにもまた白く交じっていた。先帝の代から朝廷を支えてきた重臣であり、ゼフォンにとっては“育ての親”のような存在でもある。
 宰相が、うやうやしく一礼してから言った。
「――お見事でございましたな、陛下」

 ゼフォンは視線を湯飲みに落としたまま、応じた。
「使節もそなたたちも、よく見ていたであろう」
「ええ。……あの者、“カナリア”と申しましたか。
采配も、構成も、隙がなかった。
なかなかのものですな」
 宰相の口ぶりは、まるで品評するようだった。

 それが“認めた”言葉であることに、ゼフォンはすぐ気づいた。だが、それでも釈然とはしなかった。

 宰相は、やや近づきながら続けた。
「ただ……ご寵愛も度を過ぎれば――」

「分かっておる」

 宰相は、ひるむことなく続けた。
「あの者の才がいかに目を引こうと――“妃は妃”。
節度をお守りくださいますよう」

 その言葉で、ゼフォンの胸にイラ立ちがよみがえる。
(こやつはカナリアが気に入らぬのだ。
今やヤン家の養女でもあるのに……)

 シャオレイを入宮させると決めた日、真っ先に反対の声を上げたのが、この宰相だった。
(“青楼上がりの娘を妃に封じると、後宮が乱れる”と、こやつが言った。
だから予は、カナリアに姫の位しか与えられなかったのだ)

 ゼフォンは茶を飲み干して、碗を置いた。
「……心得ておる」
 その声音には、棘がのぞいていた。

「陛下は英明なり」
 宰相は深く頭を下げ、音もなく下がっていった。

 残されたゼフォンは、しばらく無言のままだった。やがて席を立ち、寝殿の裏へ向かった。

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