小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第30話 染み入る雫(4/6)




 ゼフォンは、裏の外廊下の一角で月を眺めていた。外套を羽織り、椅子に腰かけている。

 そこへ、チャオ内侍が薬湯を運んできた。
「陛下、今宵はこれをお召し上がりください。
お体に害ございませんように」

 ゼフォンはそれを受け取り、ぬるい液を一気に喉へ流した。広がった苦みを薄めるようと、水を飲む。
 やがて、大きく息をついた。

(……今宵の舞台は、カナリアに命じる必要など無かった)
 ゼフォンは、シャオレイに無理をさせたくはなかった。だが、他に手立てが無かった。
 臣下の口を封じるには、”妃の才”で黙らせるしかない。
(なぜ、予が女ひとりを守るのに、これほど理《ことわり》を立てねばならぬ……)

 シャオレイの頬の柔らかさ。シャオレイの額に口づけたときの、震える彼女のまなざし――全てを抱きしめてやりたかった。
(だが、それは叶えてはならぬ)

 七夕の宴の夜、ゼフォンはシャオレイの命を選んで刺客を逃がした。そのことを、重臣たちから強く批難された。
 だから、夜伽を再開できないのだ。そんなことをしたら、シャオレイが臣下たちから、傾国とささやかれるのは明白だ。

 そうなれば、政敵たちはそれを口実に牙を剥く。

(己が堕ちれば、すべてが崩れる。
帝位を守れなければ、カナリアの首もまた飛ぶのだ――……)

 風が吹き、雲が月を隠していく。雲間に透ける光が、冷たくゼフォンを照らしていた。

< 150 / 250 >

この作品をシェア

pagetop