小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第63話 終わる寵妃(4/4)


 隠し扉の向こうで、フェイリンは身じろぎもせず成り行きを見守っていた。
(ダン・ゼフォンは、衝動で動く男ではない。……今は静観だ)
 だが、次の瞬間――扉越しに届いたシャオレイの声に、フェイリンの思考が止まる。

「へ……陛下……お、お許しくださいませ……。どうか……どうか……」

 フェイリンの耳が、シャオレイの、震える声だけを拾い上げた。
(シャオレイが、怯えてる?)

 刀を突きつけても気丈だった女が。
 狂犬ジュンにも臆しなかった女が。
 ――今、ひどくうろたえていた。

 そのとき、フェイリンに再び、12年前の惨劇がよみがえった。

 フェイリンの母は、兄たちの命乞いをしていた。

 それを、幼いフェイリンは物置の中で息を潜めながら、聞いているしかなかった――。

 その瞬間、フェイリンの理屈は全て吹き飛んだ。
(俺は、あのときの無力な俺とは違う……!)
 次にフェイリンが動いた時には、もう扉を押し開けていた。

「俺がその女を脅して連れ出していた」
 声が響く。

 ゼフォンとシャオレイは、揃って声の方へ向いた。

 そこには、胡服に身を包んだ男――フェイリンが立っていた。
 フェイリンは、ゼフォンを冷たく見つめていた。

 シャオレイの目が、驚きと焦りに大きく見開かれる。

 ゼフォンは目を鋭く光らせた。
「誰だ?」
 その問いの答えを待つことなく、ゼフォンは命じた。
「賊を捕らえよ!」

 侍衛たちがなだれ込み、即座に、フェイリンを捕らえた。

 シャオレイが我に返ったときには、すでにフェイリンは連行されつつあった。

(なんで……あなたが来るのよ……!)
 フェイリンが姿を現した理由が、シャオレイには分からなかった。

 ゼフォンは、宮女たちに命じた。
「妃を紫微殿《しびでん》へ、連れてゆけ」

 ふたりの宮女がそれぞれシャオレイの脇を抱え、立ち上がらせる。

 宮女たちに歩かされながらも、シャオレイの頭の中に浮かんでいたのは――フェイリンの声だった。

『そなたを守るのは……俺だ』

(守るって……。
こんなふうに命がけで証明されるなんて……聞いてない)
 シャオレイに、じわりと涙がこみあげてくる。

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