小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第65話 かんじがらめの統治者

第65話 かんじがらめの統治者(1/6)


 飛んできた侍医へ、ゼフォンは告げた。
「妃は錯乱している。
きっと、賊に酷い目に遭わされたのだろう」
 その声には、怒りもイラ立ちもなかった。ただ、決して縮められない距離だけがあった。

「私はおかしくないわ……真実なのよ……。
ねえ、お願い……信じて……」
 シャオレイの声は宙をさまよい、どこにも届かなかった。

 ゼフォンは、もうそれ以上聞く必要はないと判断して、踵《きびす》を返した。

 その瞬間――
「お願い……行かないで……!」
 シャオレイは床に這いつくばり、無我夢中でゼフォンの袍《ほう》の裾にすがりついた。

 泥と埃にまみれたシャオレイの指が、ためらいもなく、皇帝の衣を汚していく。

 ゼフォンの動きが、わずかに止まった。

 その一瞬を、シャオレイは希望だと錯覚した。
「私が悪かったわ……!」
 震える声で、必死に訴えた。
「あなたに黙って、勝手なことをした罪はぜんぶ償う。
でも……でも……ただあなたを愛していただけなの……!」

 シャオレイの目から、大粒の涙がこぼれた。

「あなたとただ、添い遂げたかっただけなの……!
お願い、私を置いていかないで……もう……もう、ひとりぼっちは嫌なの……!」

 それは、妃の言葉ではなかった。
 誇りも立場も、すべてを投げ捨てた、ひとりの女の叫びだった。

 だが、ゼフォンは顔色ひとつ変えなかった。
 シャオレイを見下ろす瞳には、疲労と冷めた判断、そしてわずかな哀れみが宿っていた。

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