小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第66話 紙切れ1枚の別れ(3/5)
◆
月に雲がかかり、宮廷の闇は一層深くなった。
紫微殿《しびでん》の執務室で、ゼフォンは机の上の2通の書状に目を落としていた。
1通目は、フェイリン――“ビン・ユエン”に杖刑を命じるものだ。
赤と金で装飾されたその命令書は、格調高い布張りであった。その重々しい造りは、見せしめの意図があった。
ゼフォンは、書類を見下ろした。文面のどこを読んだわけでもない。
ただ、処刑する男の名だけを見つめた。
「……妃に触れたか」
ゼフォンは、誰にも聞こえない声で低くつぶやいた。
そして、印章を取って書状に強く押しつける。
本当は自分自身の手で、殺してやりたかった。だが、皇帝としてその願いを叶えるわけにいかない。
殺意を込められた押印は、わずかに歪んでいた。
ゼフォンは一息ついて、2通目を手に取る。
それは、シャオレイを冷宮へ送る書状だった。
内々で処理をするため、簡素な造りだった。その地味な装いが、シャオレイの今後を象徴しているようだった。
印章を握ったゼフォンの手が、わずかに止まる。
これが、永遠の別れになるかもしれないのだ。
ゼフォンはしばらく、目を閉じていた。
まぶたの裏に浮かんでくるのは、シャオレイの最後の顔。
シャオレイは涙しながら、必死でゼフォンに訴えていた。
『ねえ、お願い……信じて……』
ゼフォンが信じるには、シャオレイの話はあまりにも荒唐無稽だった。
(妄言の何を信じろというのだ……)
ゼフォンは、ゆっくりと目を開けた。
やがて、静かに印を書状に押した。
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月に雲がかかり、宮廷の闇は一層深くなった。
紫微殿《しびでん》の執務室で、ゼフォンは机の上の2通の書状に目を落としていた。
1通目は、フェイリン――“ビン・ユエン”に杖刑を命じるものだ。
赤と金で装飾されたその命令書は、格調高い布張りであった。その重々しい造りは、見せしめの意図があった。
ゼフォンは、書類を見下ろした。文面のどこを読んだわけでもない。
ただ、処刑する男の名だけを見つめた。
「……妃に触れたか」
ゼフォンは、誰にも聞こえない声で低くつぶやいた。
そして、印章を取って書状に強く押しつける。
本当は自分自身の手で、殺してやりたかった。だが、皇帝としてその願いを叶えるわけにいかない。
殺意を込められた押印は、わずかに歪んでいた。
ゼフォンは一息ついて、2通目を手に取る。
それは、シャオレイを冷宮へ送る書状だった。
内々で処理をするため、簡素な造りだった。その地味な装いが、シャオレイの今後を象徴しているようだった。
印章を握ったゼフォンの手が、わずかに止まる。
これが、永遠の別れになるかもしれないのだ。
ゼフォンはしばらく、目を閉じていた。
まぶたの裏に浮かんでくるのは、シャオレイの最後の顔。
シャオレイは涙しながら、必死でゼフォンに訴えていた。
『ねえ、お願い……信じて……』
ゼフォンが信じるには、シャオレイの話はあまりにも荒唐無稽だった。
(妄言の何を信じろというのだ……)
ゼフォンは、ゆっくりと目を開けた。
やがて、静かに印を書状に押した。