小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第67話 冷たい檻(5/5)




 冷宮は、日当たりの悪い場所にあった。その空気は、湿って重い。

 シャオレイが冷宮の門をくぐると、瞬時に刺すような視線を感じた。

 ここにいる廃妃たちが、窓や扉の隙間から、新入りのシャオレイをじっと観察しているのだ。

 苔むした石畳に、裸足のシャオレイは滑りそうになった。シャオレイには靴も支給されず、囚人同然の扱いだった。
 だが、シャオレイの頭の中にあったのは、ひとつの考えだった。
(あとはここで自害するしか、フェイリンを助けられない……)



 シャオレイに用意された部屋は、想像以上に荒れ果てていた。
 カビ、湿気、古い血のような、混ざりあったにおいがする。
 天井の隅には蜘蛛の巣があり、梁からほこりの塊が垂れていた。
 ひび割れた壁は、ところどころに穴が開き、すき間風が流れ込む。
 床板は、歩くたびにぎしぎしと音を立てた。
 寝台は黒ずんでいて、染みの広がる薄い毛布が掛けられていた。
 部屋の隅には、ほこりまみれの卓と椅子が置かれている。

 宦官たちは扉を閉め、部屋に残った。彼らは、無言でシャオレイを見張っている。

 シャオレイは、自分を呪った。
(……監視。陛下の命《めい》ね。
――馬鹿だわ、私は。
さっき騒がなければ、ここで成し遂げられたのに……)

 シャオレイは息をついて、寝台の上で膝を抱えた。毛布をかぶり、わずかな望みにかけた。
(フェイリンのことだから、きっとうまく逃げるはず……。
あのときも、自分の死を偽装したし)

 かつてメイレン暗殺を失敗したフェイリンは、ニセの遺体を使って、見事に追手の目をごまかした。

 今回もきっとそうだと、シャオレイは信じたかった。

 いつの間にか、鳥のさえずりがやんでいたことに、シャオレイは気づいた。
 それどころか、風の音すら消えている。
 同時に、外からただならぬ気配が迫ってきた。
 無数の人間が集まっている気配――その不気味な空気の重さだけが、壁越しにシャオレイへ伝わってきた。
 こんな風になるのは、誰かが罰せられるときだけだ。そして今日、それを受ける人間は一人しかいない。

 シャオレイの身体がじっとりと冷える。
(フェイリン……逃げなかったの――?)

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