小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第71話 よみがえる熱(3/6)


「シャオレイ」

 その声を聞いた瞬間、シャオレイの心臓が大きく跳ねる。
 シャオレイの、聞き覚えのある、ずっと聞きたかった――ぶっきらぼうであたたかい声。
 だが、それは幻かもしれなかった。
 そう思ったら、シャオレイには目を開ける勇気が出なかった。もしも誰もいなかったら、もう耐えられないからだ。
 そのとき、敷布越しにシャオレイの肩に手が触れた。懐かしいぬくもりが、シャオレイの全身に伝わる。

「シャオレイ……俺だ」

 その声に導かれるように、シャオレイはおそるおそる顔を出した。

 そこにいたのは――傷だらけのフェイリンだった。
 フェイリンの持つ燭台の揺れる炎が、彼の白髪《はくはつ》を淡く照らしていた。

 シャオレイは、息をのんだ。幻ではないかと疑いながら、両手を伸ばそうとしたが――もう手が動かなかった。
「……あ……」
 シャオレイの唇が動いても、声が出ない。

 シャオレイの姿を見た瞬間、フェイリンの心臓は止まりそうになった。

 光を宿していた瞳には、焦点がなかった。
 艶やかだった髪は、櫛も通さず乱れていた。
 ほほ笑みをたたえていた頬は、こけていた。
 紅を差していた唇は、血の気が失せてひび割れていた。
 触れた肩は、やせて氷のように冷たかった。
 美しくさえずっていた声は、かすれて出てこない。
 ――生きているのが、奇跡だった。
 そんな姿で、それでもシャオレイはかすかに呼吸をしていた。何度も、声にならない声で何かを伝えようとしていた。

 壊れかけたシャオレイを、フェイリンはそっと抱きかかえた。それから水筒を取り出し、シャオレイの唇に傾けた。

 水がシャオレイの喉をゆっくりと通った瞬間、ひび割れた大地に染みこむ雨のように、生きる力がわずかに戻ってきた。
 シャオレイは、フェイリンに抱きかかえられたまま、彼の頬を撫でる。すると、確かなぬくもりが伝わった。

 フェイリンの体からは、血と薬の混じった匂いがほのかに漂っていた。

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