小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第72話 逃げる小鳥(3/5)


 シャオレイが女将に足を拭いてもらっていると、再び戸を叩く音が響いた。

 戸の向こうから、茶屋の主人の声がする。
「医者が参りましたので、お知らせを……」

 女将が「どうぞ」と言ったとたん、戸が開き、医者がズカズカと部屋へと入ってきた。
 無精ひげをたくわえた武骨な医者は、眠ったままのフェイリンの布団を剥ぎ、その衣を手早く脱がせていく。

 シャオレイはその様子を、長椅子に腰かけたまま見ていた。
 すると、シャオレイの目に、乱雑に結ばれ、血に染まった包帯が映る。それは、ジュンの配下がした応急処置だったが、痛々しさを際立たせていた。

 医者が慎重にフェイリンの包帯を剥がすと――現れたのは、深く裂けた傷跡だった。
 皮膚は赤黒く腫れ上がり、肉が割れ、所々に乾いた血が固まっている。

 シャオレイは、思わず息をのんだ。
(こんな体で抜け出して、私をずっと抱えてくれてたの――?)
 シャオレイは身を乗り出し、震える声で言った。
「助かりますよね……?」

 だが医者は答えず、黙々と傷を縫い合わせていった。

 シャオレイが何気なく見たフェイリンの手は、爪がすべて剥がされていた。フェイリンが受けた仕打ちの名残が、そこにあった。

 シャオレイの胸は、強くしめつけられた。

 やがて、医者は縫合を終えた。手際よく薬を塗りながら、シャオレイに手当ての仕方を教えていった。
 それから、フェイリンをぐるぐると包帯で巻いて、シャオレイへ言った。
「全快するまで4ヶ月。
1ヶ月はできるだけ動くな。
肉がまた裂ける」

 緊張が解けたとたん、シャオレイは激しく咳込んだ。

 医者は、シャオレイの喉と手足を診察したあと「他にあるか?」と問うた。

 シャオレイが外套を脱ぎ、赤く腫れた肌をあらわにした。

 それを見て、医者は言った。
「粗悪な衣《ころも》に、肌が負けたんだな。
これを女将に塗ってもらえ」
 医者が薬籠《やくろう※》から、小さな壺を取り出した。そこには、細かく砕かれた生薬の粉が詰められていた。 [※医者が持つ往診用の薬箱]
 医者がシャオレイへ言った。
「これを湯に溶かして飲め。
喉にも、咳にも効く。
女将、白湯《さゆ》を持ってきてやってくれ」

 女将が出ていったあと、医者も扉へ向かった。
 医者は、「ったく。3倍の料金を貰わんと割に合わん……」とボヤきながら、部屋を後にした。

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