小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第73話 ゆるんだ鳥籠(2/6)
◆
冷宮へと駆け込んだゼフォンの目に映ったのは、粗末な寝台に横たえられた”ヤン妃”の遺体だった。彼女には、麻の毛布が掛けられていた。
「ヤン妃は、自害なされたようです。身体的特徴、衣類ともに一致しました。冷宮入宮時に身体検査を行った女官も、確認しております」
宦官の説明に、ゼフォンの胸がわずかにざわついた。
ゼフォンは息をつき、チャオ内侍に命じた。
チャオ内侍が敷布を持ち上げると、遺体の額に刻まれた小鳥の印が現れた。
ゼフォンは思わず、目をそらした。
遺体の顔は、血の気を失い、変色していた。
ゼフォンは息をつき、皇帝として冷静にふるまう。
だが、ゼフォンの喉はひどく渇いていた。
指先に、わずかな震えが走っていた。
額には、知らぬ間にうっすらと汗がにじんでいた。
ゼフォンの采配ひとつで、運命を変えられたはずの女。それを見殺しにした現実が、ゼフォンの胸を貫いた。
(予が間違ったわけではない)
ゼフォンは、そう己に言い聞かせる。
(そなたに甘い顔をすれば、傾国に溺れる暗君と烙印を押される。
ラン家へ隙を見せたら、帝位を奪われかねぬ。
ヤン妃に対しても、宰相たちが露骨な弾圧を仕掛けるであろう。
だから、予は厳罰にするしかなかったのだ。
これは、そなた自身が選んだ道……運命だったのだ)
ゼフォンは、そう結論づけることで心を静めた。
だが――思わずゼフォンに冷静さが戻った。
それは、遺体の顔へ抱いた、かすかな違和感だった。
ゼフォンはしばらく無言のままだったが、やがてチャオ内侍に目配せした。
チャオ内侍が察して、周囲の者を部屋の外へ下がらせた。
ゼフォンは寝台に一歩近づいて、声を抑えて命じた。
「……衣《ころも》を脱がせよ」
一瞬目を見開いたチャオ内侍だったが、遺体の服を脱がせていく。
すると、粗末で薄汚れた麻の衣《ころも》の下から現れたのは、場違いなほど上質な絹の訶子《かし》だった。
その美しい刺繍に、ゼフォンの胸がわずかにきしんだ。
(予が与えたものが残っていたか――)
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冷宮へと駆け込んだゼフォンの目に映ったのは、粗末な寝台に横たえられた”ヤン妃”の遺体だった。彼女には、麻の毛布が掛けられていた。
「ヤン妃は、自害なされたようです。身体的特徴、衣類ともに一致しました。冷宮入宮時に身体検査を行った女官も、確認しております」
宦官の説明に、ゼフォンの胸がわずかにざわついた。
ゼフォンは息をつき、チャオ内侍に命じた。
チャオ内侍が敷布を持ち上げると、遺体の額に刻まれた小鳥の印が現れた。
ゼフォンは思わず、目をそらした。
遺体の顔は、血の気を失い、変色していた。
ゼフォンは息をつき、皇帝として冷静にふるまう。
だが、ゼフォンの喉はひどく渇いていた。
指先に、わずかな震えが走っていた。
額には、知らぬ間にうっすらと汗がにじんでいた。
ゼフォンの采配ひとつで、運命を変えられたはずの女。それを見殺しにした現実が、ゼフォンの胸を貫いた。
(予が間違ったわけではない)
ゼフォンは、そう己に言い聞かせる。
(そなたに甘い顔をすれば、傾国に溺れる暗君と烙印を押される。
ラン家へ隙を見せたら、帝位を奪われかねぬ。
ヤン妃に対しても、宰相たちが露骨な弾圧を仕掛けるであろう。
だから、予は厳罰にするしかなかったのだ。
これは、そなた自身が選んだ道……運命だったのだ)
ゼフォンは、そう結論づけることで心を静めた。
だが――思わずゼフォンに冷静さが戻った。
それは、遺体の顔へ抱いた、かすかな違和感だった。
ゼフォンはしばらく無言のままだったが、やがてチャオ内侍に目配せした。
チャオ内侍が察して、周囲の者を部屋の外へ下がらせた。
ゼフォンは寝台に一歩近づいて、声を抑えて命じた。
「……衣《ころも》を脱がせよ」
一瞬目を見開いたチャオ内侍だったが、遺体の服を脱がせていく。
すると、粗末で薄汚れた麻の衣《ころも》の下から現れたのは、場違いなほど上質な絹の訶子《かし》だった。
その美しい刺繍に、ゼフォンの胸がわずかにきしんだ。
(予が与えたものが残っていたか――)