小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第83話 取り戻した瑠璃色の小鳥(6/6)


 シャオレイは湯あみを終え、白い布で体を包まれた。

 シャオレイを抱き上げようとしたゼフォンは、不意に手を止めて優しげに言った。
「ルリ……予は無理強いはしない」

 シャオレイは、笑みを作ってうなずいた。
「陛下にお仕えいたします」

 ゼフォンは笑みを浮かべてシャオレイを抱き上げ、湯室《とうしつ》を出た。

 妃なら誰もが嫉妬に狂いそうな、甘い光景。だが、シャオレイの心は冷めていた。
(そういえば、入宮して初めての伽で同じことをされたわね……。
あの頃とは、何もかもが変わったわ。
いえ、そんなことよりも――。
このまま伽が行なわれたら、まずいことになるかも……)

 青楼にいたシャオレイは、南方を巡幸中のゼフォンに出会い、床《とこ》を共にした。そして彼に気に入られて、そのまま身請けされたのだ。
 入宮していない女が伽を行なうのは、本来なら許されないことだ。だが、当時は、宮廷に入ってから姫に封じられたので、問題は無かった。


(2年前の私は無知で、恋に浮かされて危ない橋を渡ってた。
でも、今回は違う。
伽のあとに陛下がひとこと、”この女に惑わされていた”とこぼしたら……)

 もしそうなれば、シャオレイは淫奔《いんぽん※》の罪で、”皇帝を惑わした女”として処刑される。冷宮以下の場所で、生涯幽閉されるかもしれないのだ。 [※性的にみだらなこと]

 シャオレイは、国家権力の圧力に押しつぶされそうだった。
(いえ、もっと残酷な目に遭うかもしれない。
死ぬに死ねないままで――。
陛下にひと思いに処刑されるのは、覚悟してたけど……。
いえ……いいえ……大丈夫。
陛下は、そんな卑怯なことをされる方じゃないわ。
ああでも――)
 シャオレイの頭に浮かんでいたのは、命を落としかけた冷宮での日々だった。
(嬉しそうなそぶりをしているだけで、本当は私をゆるしてなどいなかったら……)

 シャオレイの瞳に怯えが浮かんでいることに、ゼフォンはまったく気づかなかった。
 彼はただ――戻ってきた小鳥を抱いて、弾む足取りで御座所《ござしょ》へ向かっていた。
(2年前のあの日と同じだ――もう一度、やり直せばよい)

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