小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第84話 思い出に抱かれて

第84話 思い出に抱かれて(1/6)



 巡幸船団は、次の目的地――ティンピンへ向かって、大河を進んでいた。

 夕陽が、御座所《ござしょ》内に薄く差し込んでいる。
 だが、そこに漂うのは張りつめた気配だった。

 ゼフォンに抱きかかえられたシャオレイは、寝台にそっと座らされた。

 ゼフォンはチャオ内侍に衣《ころも》を脱がされたあと、中衣《ちゅうい》姿でシャオレイの横に腰を下ろした。
 それからシャオレイのあごをそっとつかみ、口づけをした。

「そういえば……ルリに尋ねたいことがあったのだ」

 その瞬間、シャオレイの心臓が跳ねる。

 ゼフォンは、湯室《とうしつ》で没収した佩玉を、シャオレイに示した。
「誰から、預かった……?」
 ゼフォンの声は柔らかかったが、シャオレイを追い詰めていた

 シャオレイは、何も言えなかった。
 佩玉を贈られる意味を、ゼフォンも知っている。シャオレイがどう答えても、ゼフォンの怒りを避けられない。
 シャオレイは黙ったまま、膝に目を落とした。

 しばらくの沈黙のあと、ゼフォンは息をついた。それから、シャオレイの手のひらに佩玉を乗せてたったひとこと――
「壊すのだ」
 佩玉を壊す意味も、ゼフォンは知っている。

 シャオレイは、小さく首を振った。
(何をしてるの私。
演技で壊せばいいじゃない。
それが最善なのよ)
 シャオレイの理性は叱咤したが、彼女の体は動かない。大切な夫から託された愛の証しを、この手で壊せなかった。

「なぜ出来ぬ……?」
 ゼフォンの声には、かすかなイラ立ちと哀しみがにじんでいた。

 シャオレイは、ただ、手のひらの佩玉を見つめていた。

 その様子に、ゼフォンの顔色が変わった。ゼフォンは無言でシャオレイから佩玉をむしり取り、床へと叩きつけた。

 粉々に砕けた佩玉の音が、シャオレイの心臓を握りつぶした。

「そなたの夫は、予なのだぞ」
 ゼフォンの目には、怒りのほかに悲痛な色も宿っていた。

 シャオレイはその言葉を受け止めることしかできず、うなずいた。

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