小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第85話 焼け落ちる想い(3/3)
それからゼフォンは、香り袋を手に取り、何気なく眺めた。
そこにほどこされた刺繍――雲と蕾《つぼみ》に、ふと眉をひそめかける。
じわりと嫌な気配を感じたまま、ゆっくりと袋を開けた瞬間、ゼフォンに衝撃が走った。
銀の糸で結ばれた黒髪と白髪《はくはつ》が、まるで寄り添うように納められていたのだ。
それは、永遠の契りを交わす婚礼のしるしだった。
“まだ自分の女”だと思っていたのに、“もう誰かの妻だった”という事実を突きつけられた瞬間――ゼフォンは、迷いなく香り袋を火鉢へ落とした。
ゼフォンのかたわらに控えていたチャオ内侍の目が、わずかに震えた。
皇帝が火鉢に物を投げ入れるなど、宮廷のしきたりでは決してあってはならぬ行為だからだ。それなのに今、ゼフォンは自らの指先で、香り袋を炎の中に沈めた。
それほど、ゼフォンの嫉妬と執着は、理性を超えていた。
小さく炎をあげ、燃えていく香り袋を、ゼフォンの瞳が映していた。
やがて、髪の焦げるにおいが漂い始めた。それが、ゼフォンの鼻をちくちくと刺す。
火鉢を見下ろしているゼフォンは、無意識に拳を握る。関節が、きしむほどに音を立てた。その手の甲に、浮かんだ血管が脈打っていた。
(ルリは今、予の元にいる。
ならば……あやまちは、ゆるしてやるのが理《ことわり》だ)
その思いとは裏腹に、ゼフォンの拳の力は抜けない。
奥歯も、知らず知らずに食いしばっていた。
呼吸のたび、肩がわずかに揺れる。
笑おうとした唇は、笑みを刻まないまま、ゆがんでいる。
香り袋は、もう灰になっていた。
だがゼフォンの脳裏には、雲と蕾《つぼみ》の刺繍、銀の結び目、黒と白の髪が――はっきりと残っていた。
それからゼフォンは、香り袋を手に取り、何気なく眺めた。
そこにほどこされた刺繍――雲と蕾《つぼみ》に、ふと眉をひそめかける。
じわりと嫌な気配を感じたまま、ゆっくりと袋を開けた瞬間、ゼフォンに衝撃が走った。
銀の糸で結ばれた黒髪と白髪《はくはつ》が、まるで寄り添うように納められていたのだ。
それは、永遠の契りを交わす婚礼のしるしだった。
“まだ自分の女”だと思っていたのに、“もう誰かの妻だった”という事実を突きつけられた瞬間――ゼフォンは、迷いなく香り袋を火鉢へ落とした。
ゼフォンのかたわらに控えていたチャオ内侍の目が、わずかに震えた。
皇帝が火鉢に物を投げ入れるなど、宮廷のしきたりでは決してあってはならぬ行為だからだ。それなのに今、ゼフォンは自らの指先で、香り袋を炎の中に沈めた。
それほど、ゼフォンの嫉妬と執着は、理性を超えていた。
小さく炎をあげ、燃えていく香り袋を、ゼフォンの瞳が映していた。
やがて、髪の焦げるにおいが漂い始めた。それが、ゼフォンの鼻をちくちくと刺す。
火鉢を見下ろしているゼフォンは、無意識に拳を握る。関節が、きしむほどに音を立てた。その手の甲に、浮かんだ血管が脈打っていた。
(ルリは今、予の元にいる。
ならば……あやまちは、ゆるしてやるのが理《ことわり》だ)
その思いとは裏腹に、ゼフォンの拳の力は抜けない。
奥歯も、知らず知らずに食いしばっていた。
呼吸のたび、肩がわずかに揺れる。
笑おうとした唇は、笑みを刻まないまま、ゆがんでいる。
香り袋は、もう灰になっていた。
だがゼフォンの脳裏には、雲と蕾《つぼみ》の刺繍、銀の結び目、黒と白の髪が――はっきりと残っていた。