小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第86話 檻の中のさえずり(6/6)


 シャオレイは目を伏せたまま、無言だった。
 シャオレイが前世で命を落としたときに、ゼフォンを救いたいと心から願った。ゼフォンへすべてを捧げてもいいと思った。
 その気持ちは、忠誠とは違っていた。
 だが、どう違うのか――シャオレイはうまく説明できなかった。

 ゼフォンは、シャオレイの髪を握る手に力を込めた。
「妃とは、皇帝に忠誠を捧げるものだ。
――忠誠とは、愛の証しのはずだった。
そなたは予に、何ひとつ捧げていなかったのか……?」
 ゼフォンの目に浮かんだ感情は、怒りでも憎しみでもない――虚無だった。

 シャオレイは、何も言えなかった。
(私は、陛下を傷つけている。
でも、私にはもう癒せない……)

 やがて、ゼフォンはシャオレイの髪から手を離して言った。
「歌え……」

 シャオレイは歌を続けた。
「……永久《とわ》に導く 星のごとくに……
……たとえこの身が 塵《ちり》となり……」
 その瞬間――シャオレイの高音は、かすれてしまった。
(ああ、やっぱり……もうあの声は、出せないのね)
 深く静かな悲しみ。それが胸に落ちるのを感じながら、シャオレイは歌い続ける。

 シャオレイの喉を焼いたのは、冷宮でひいた風邪。
 あのときのシャオレイは、朦朧とする意識の中、冷たい床の上でひとりで咳き込み続け――声を失っていった。
 今ここで歌っているのは、生き残っただけの女。
 かつて仙女とまでたたえられた声は、もうどこにもなかった。

 ゼフォンも、その理由を察していた。
 シャオレイの声の衰えが、あの冷たい牢のせいであることを――。
 だが、ゼフォンは一言も発しなかった。謝罪も、いたわりも、後悔も。
 ただ目を伏せたまま、ゼフォンはシャオレイを抱く腕に力を込めた。
 胸の上にあるシャオレイの重みが、ゼフォンにはたまらなく、愛しくて――憎らしかった。

 それが、なおさらシャオレイの胸を刺した。
(何も言わないのね……。
あなたは、何も失っていないふりをするのね)

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