小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第88話 フェイリンの策

第88話 フェイリンの策(1/4)




 フェイリンは、ゼフォンの喉元に刀を突きつけながら、甲板へと続く廊下を慎重に進んだ。

 フェイリンたちを左羽林軍《さうりんぐん》の兵たちが取り囲み、刀や槍を構えたままにらんでいる。

 だが、シャオレイの心にあったのは――まったく別のことだった。
 シャオレイは、ゼフォンへ伽をしながら歌っていた。それを――フェイリンに、見られてしまった。
(壊れた……また愛が壊れてしまったわ……。
もう、おしまいだわ……。
どうして、どうして……よりにもよって今、来たの……)
 シャオレイにあったのは、羞恥ではない。夫を裏切ってしまった罪悪感だった。
 シャオレイは、フェイリンを守りたかった。だから、汚れを引き受けたのに――その姿を、“守りたかった相手”に見られたのだ。

 フェイリンたちが甲板へ出ようとした瞬間、船の揺れが大きくなり、どこからか異音がした。

 甲板の端から、黒ずくめの賊たちが乗り込んできたのだ。賊たちは、フェイリンたちをめがけて突進してくる。

 殺気とともに振り下ろされたその刀を、フェイリンはとっさに避けた。それから、ゼフォンの首すじに刀を押し当てて叫ぶ。
「皇帝がどうなってもいいのか!?」

 だが、賊たちはひるむことなく刀を振り回す。

 賊たちの狙いがゼフォンであることに、フェイリンは即座に気づいた。
(――ラン家の私兵か)

 ゼフォンもまた、察知していた。
(ラン家が行動を起こした)

 すぐさまフェイリンは、シャオレイへ「中へ戻れ」と声をかけた。

 シャオレイが慌てて船内へ戻ると、フェイリンたちも続いた。

 御座船《ござぶね》の甲板では、禁軍とラン家の私兵たちの激しい戦闘音が響く。
 ラン家が雇った密兵たちも、次々と乗船していた。

 左羽林軍に追われながら、シャオレイたちは船内の廊下を縫うように進んだ。やがて、厨房横の小さな貯蔵庫へと滑り込んだ。

 戦が始まれば、シャオレイたちには、感情を吐き出す暇もなかった。

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