小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―

第93話 前世の涙

第93話 前世の涙(1/8)


 禁軍が、メイレンの亡骸を運んでいく。

 フェイリンは、その様子をただ黙って見つめていた。
 12年前のすべてを失ったあの日から、仇討ちだけを生きる理由にしてきた。二度のメイレン暗殺失敗を越え、今日ようやく成し遂げた。
 だが――フェイリンの心は、空虚だった。
 フェイリンは、あれほど憎んでいた仇に、自分の名を告げることもできなかった。一族の無念と恨みを告げることすら、叶わなかった。
(奴は俺ではなく、あの男に向かって呪詛を吐いて死んでいった――)
 フェイリンは、仇《かたき》にとどめを刺した。
 ただ、それだけだった。
 フェイリンは空を見上げた。

 そこはあまりにも、透き通り――真っ青だった。

 シャオレイは、短刀を握りしめたまま立ち尽くしていた。
 自分の手で終わらせた実感は、なかった。あまりにも、あっけなかった。
 手に残る短刀の重みが、まるで夢のようだった。

 フェイリンがシャオレイに近づこうとするが、禁軍の槍に阻まれた。

 ゼフォンはゆっくりと、シャオレイに歩み寄った。それから、ぼうぜんとしたままのシャオレイのこわばる指をほどき、短刀を抜き取った。

 その瞬間――
 シャオレイは、ゼフォンの手を無意識に握った。

 ゼフォンが眉を上げる。

 不意に、シャオレイの瞳から涙があふれ出した。

 前世で、凍りつくように冷たくなっていったゼフォンの手。だが、今はそこに命のぬくもりが宿っていた。

 それが、シャオレイには心地よかった。
(なぜ……私は泣いてるの?
なぜ……陛下を助けたの?
陛下は、フェイリンを殺そうとしたのに……。
もう、陛下を愛してはいないのに……。
……なぜ?)

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