小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第20話 思い出の蜜月(2/4)


 ゼフォンの席へ呼ばれたシャオレイは、目を見張った。ゼフォンのたたずまいと腰の佩玉《はいぎょく※》から、彼がただ者ではないと気付いた。 [※帯にかけた玉の飾り]
「シャオレイと申します。
私の歌を気に入ってくださったのですね」

「心がしびれた……。
そなたには美しい毒があるのだな」

 その言い方に、シャオレイはくすっと笑った。少し俗っぽい、しゃれた褒め言葉を贈られたのは初めてだったからだ。
(声は思ったより低くて、気品のある話し方ね。
――ちょっと好みかも)

「旦那様は、なんとお呼びしたらよいのでしょう?」

「ゼフォンでいいぞ。
気安くしてよい。
今宵はただの男でいたいのだ」

 隣の卓にいたチャオ内侍と侍衛が、ぎょっとした。皇帝の名を呼ばせるなど、あり得ないからだ。

「……ゼフォンはこの辺の人じゃないみたいけど、どこから来たの?」

「都から来たのだ。さっきの歌は、流行っているのか?」

「私が作ったの」

「多才なのだな」

 シャオレイは、はにかんだ。

「そなたの歌に、“高楼にひとり、紅梅を待ち尽くす”とあった。
”蒼月集”の一節から引いたのだな――“水ぬるみ、鳥つがえど、紅梅を待ち尽くす”。
春のきざしの中、愛する者を待ちながらもただ取り残される――そんな気配が歌にはあった。
構成がよく練られている」

「すごい……!分かるの?」

「師にさんざん暗唱させられたからな。
……今でも悪夢に見るのだ」

 おどけるゼフォンに、シャオレイが笑い声をあげた。

 後宮の妃たちとは違う、飾り気のないシャオレイの笑顔――それがゼフォンの心を奪った。

 ゼフォンがささやいた。
「愛する者に待ちぼうけをくらっているのは、そなたのほうか?」

「……そんな人いないわ」

「ならば……私を今宵の逢瀬の相手にしてくれ」

 チャオ内侍も侍衛も止めなかったが、青ざめていた。

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