忘れられなかった初恋が、40歳で叶ってしまった
冷たすぎる海風が、雲一つ無い青空に似合わない日。時刻は午前10時。

絵奈と祐太郎は桜木町駅で待ち合わせていた。
今回の祐太郎の出張先が横浜付近ということで、このまま横浜で会うことになったのだ。

「おはよー、まだまだ寒いねぇ」
絵奈は自然と祐太郎の左腕に絡み付いた。

祐太郎は、前より少しだけ伸びた絵奈の横髪を耳にかけた。
「絵奈ちゃん、今日も可愛いな」
「ちょっと祐太郎、朝からテンションおかしいって!」

2人は見つめ合って吹き出すと、そのまま手を繋いで並木道を歩き出した。

「絵奈、あれ乗ってみない?」
祐太郎が指差したのは横浜のシンボルともいえる大観覧車だ。

「いいね!」

今日は風が強くてせっかくセットした髪も乱れっぱなしだが、祐太郎がたまに髪を整えるように撫でてくれるので、別にいいかと思った。

今日、もう会えないって言わないと。

絵奈はこの事を考えると心が締め付けられるようになるので、一旦考えないようにしながら遊歩道の景色を楽しむ事にした。


「あそこで工事してる建物見える?」
「あー、あの観覧車の方の?」
「そうそう!あれ、今俺が担当してるやつなんだ」
「え!すごい!なんかオシャレな建物だね。祐太郎君、確か建築系の大学だったもんね?」

「え?何で知ってるの?」
「同窓会で言ってたじゃん!」
「そこは覚えてるんだな。俺への告白は忘れてたくせに」
「うるさいなぁ…。いやー、建築系の大学ってカッコいいなって思って。私、高卒だからさ。引け目感じちゃったんだよね」
「そうなの?なのにあんな告白してくれたんだ…」
「もうやめて!」

祐太郎は、膨れてそっぽを向く絵奈の肩を抱き寄せてケタケタと笑っている。

何なのもう。人の気も知らないで。
私はもう、祐太郎に会えなくなってしまうのに。

こんなに好きな人が居る事によって夫との行為が苦痛になるのなら…
妊活のためには、祐太郎の事を頭から切り離さなければならないのだ。


観覧車に乗り込むと、床がスケルトンになっていて少しずつ上空へ登っていく様子が見える。

「なんか怖いねー。遠くから見るとそうでもないんだけどね」
「そう?怖いならこっち来なよ」

祐太郎が隣の席をポンポン叩いて絵奈を見つめている。

祐太郎君のその犬っぽい所…。これが女の子を落とすマジックなのね?

絵奈が祐太郎の隣に腰掛けると、案の定祐太郎が後ろから腕を回して抱きしめてきた。
そういえば、こんな密室空間に2人だけって初めてかも。鼓動が大きくなりすぎて、絶対に祐太郎君にバレてるよね?

「やっぱ横浜にして良かった…」
祐太郎がしみじみと頷いている。…祐太郎君、この観覧車に乗るために横浜にしたの??


「はぁ、祐太郎君が旦那さんだったらなぁ…」
思わず絵奈が本音を溢した。

「俺?やめたほうがいいよ。もうさ、家の中での地位が低すぎて全然男らしくない旦那だからさ笑」

意外だ。今日も絵奈を手のひらで転がすような素ぶりを見せた祐太郎君が??

「そうなの?もっとオレ様なのかと思った」
「違う違う笑。絵奈の前でカッコつけてるだけ。絵奈の前だけでしかオレ様で居られないから…」

祐太郎が何か言いかけたように見えた。

おそらく「離れないでね」って事なのかな。でもそうだよね、そんな事言えないよね。私たちに「離れない」なんて選択肢は無いんだもん。


こんなに愛おしいのに。
こんなに早く時間が過ぎるのに。
こんなに自然に笑えるのに。


私たちに「離れない」
という選択肢が無いなんて、残酷だ。


背中に感じる祐太郎の体温が、分厚いコート越しにでも暖かい。

直接肌が触れ合ったら、どんなに幸せなんだろう。
今、祐太郎君も、同じこと考えているのかな?

絵奈は祐太郎を振り向くと、祐太郎も自然と絵奈の瞳に吸い込まれる。そしてそのまま唇を重ねた。

何度も、何度も。

何度も。


絵奈は全身が、指の先から舌の先まで全て、祐太郎に奪われてしまうかのようだった。
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