結婚の決め手は焦げた玉子焼き!?黒豹御曹司は愛する秘書を逃がさない
「大輝! こっちとこっち。どっちがいいと思う?」
「あ~、俺がつけるならこっちだけど……」
 大輝は誰のだとは聞かない。
 
「そっか。ありがと」
 沙紀も誰のだとは言わないまま他のネクタイを順番に眺めた。

「あ、これ似合いそう」
「こちらは昨日入荷したばかりの新作で、裏地が……」
 店員の説明に沙紀はなるほどと頷く。
 ネクタイ選びひとつでも知らないことだらけだ。
 
 布地の特性を考慮して裁断されているとねじれが生じにくい、ネクタイの裏側にある縫い目を確認した方がいい。
 素材、織り方、縫製、結んだときに結び目をきれいに美しくしやすいかどうか。
 店員さんのチェックポイントに沙紀は学ぶことだらけだった。

「今まで柄しか見ていませんでした」
 ネクタイの価格や素材なんて気にしたことがなかったし、派手な時くらいしか目に留まらなかったけれど、こんなに奥が深いなんて。

「男の人って大変なんだね」
 気にしていなくてごめんねと大輝に謝ると、大輝は照れ笑いをしながら「おう」と返事をした。

 新作を箱に入れてもらい、お会計を済ませる。
 夏目から事前に価格帯を聞いておいてよかった。
 知らずにこの値段を見たらびっくりするところだった。

「お待たせ。ごめんね付き合わせて」
「ネクタイ、いいのがあってよかったな」
「高くてびっくりしちゃった」
 女性のワンピースよりもずっと高いんだねと沙紀は肩をすくめる。

「いや、この店が高いだけだ」
「えぇ? そういうことは買う前に教えてよ」
「あー、悪い」
 今までも私が何を買っても無関心だったもんね。
 変わっていないなぁと沙紀はネクタイの紙袋を見ながら苦笑した。

「昼飯、どこに……」
 大輝はスマートフォンで店を検索しながら、ここはどう? と沙紀に見せる。
 
「沙紀」
 大輝のスマートフォンを覗き込んでいた沙紀は、聞き覚えのある声に振り返った。

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