蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
「アグレイスさま」
セレナはそっと声をかけた。彼が振り向いたその瞬間、彼女は迷わず言った。
「私も、この砦に残ります」
その言葉に、近くにいた兵たちがざわめいた。
アグレイスも目を見開く。
「ここは……安全な場所じゃない。君を巻き込むわけにはいかない」
けれどセレナは静かに、そしてしっかりと頷いた。
「王妃だからじゃない。私は、あなたの“番”だから。そばにいさせて。私も、自分の戦いをする」
その言葉には、恐れを越えた決意があった。
ふたりの視線が、強く結ばれる。
やがてアグレイスは、深く息を吐いてうなずいた。
「……わかった。だが、無理はしないでくれ。君の命は、俺の命でもある」
「ええ」
小さく微笑むセレナの横顔に、アグレイスは安堵と誇りが入り混じったような感情を抱いた。
彼女はもう、“守られるだけの存在”ではない。
心から信じられる、“並び立つ者”だった。