蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
日が高くなるにつれ、砦の中は戦支度に動き始めた。
前線の地図、敵の布陣、物資と補給の確認。それぞれの部署が静かに、だが確実に“戦”へと歩みを進めていく。
その中で、セレナは医療班の視察に向かった。
彼女は兵たちの顔を一人ひとり見つめ、言葉を交わし、怪我の手当ての様子を見守った。
「……妃殿下!? 妃殿下が、直接ご覧になるとは……」
年若い従軍医師が目を丸くしながらも、どこか心強そうに笑った。
「私にできることは限られています。でも、こうして“目を背けずに見る”ことなら……できますから」
セレナの言葉に、医師たちは小さく頭を下げた。
人々は、ただ“戦う姿”だけに励まされるのではない。
“恐れながらもそばにいてくれる”者の存在が、人の心に最も深く届くのだ。
そして夜が近づき、夕暮れの帳が落ち始めるころ。
砦の中庭に設けられた小さな集会所に、主要な将官とアグレイス、セレナが集められた。
「……ついに、明日か」
カディスの低い声に、静かな緊張が満ちる。