蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜



 「オルフェンの兵数はおよそ五千。こちらは四千弱……正面からぶつかれば、兵力差が響きます」

 「だが、地形はこちらに有利だ。峠を越えるには時間がかかる。狙うべきは、敵の指揮系統」


 アグレイスは、指先で地図の一点を指し示した。


 「敵の将、アルベルト・ヴァレル。奴の首を落とす。それが、最も早く血を流さずに済む道だ」


 その名に、セレナはわずかに顔を曇らせた。


 (……アルベルト。あの人もまた、信念を持って動いている。憎しみだけでは、終わらせられない)


 それでも、止めなければならない。

 自分たちの未来を守るために。
 命を背負って進む人々のために。

 砦の広場には、夜の帳が静かに降りていた。
 焚き火の赤い光がいくつも灯され、兵たちは小さな火を囲みながら、静かに語らい、時に黙り込んでいた。

 明日は、命を懸ける戦いが始まる。

 それを知らない者は一人もいない。
 それでも皆、黙って鍋の湯気を見つめ、誰かの肩にそっと背中を預けていた。
 ——この夜を越えられるかもわからないまま。



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