蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜



 「あなたこそ、明日の作戦会議は終わったの?」

 「ああ。必要な調整はすべて済ませた。……あとは、もう祈るだけだ」


 彼の顔には疲れがにじんでいた。
 それでも、目は静かな決意に満ちている。
 戦場へ赴く者の覚悟と、誰よりも多くの命を背負う者の重み。


 「少し、外の風に当たろう。……君とふたりで」


 アグレイスの差し出した手に、セレナは躊躇わず指を絡めた。

 砦の裏手にある高台に、ふたりは並んで座っていた。
 眼下には松明に照らされた砦の輪郭がかすかに揺れている。
 遠くには、黒く連なる山の稜線。その向こうに、敵の陣地がある。


 「……ねえ、アグレイス」


 セレナがぽつりと口を開いた。


 「もし、明日……あなたが傷ついたら。命が危険に晒されたら。私はきっと……正気でいられない」

 「……セレナ」

 「だけど、それでも行ってほしい。あなたが信じた未来を、止めてほしくないの。……だからお願い、戻ってきて。必ず、生きて帰ってきて」


 セレナの声は震えていた。
 強くあろうとする意思と、それを打ち砕くような恐怖の波。
 どれだけ覚悟を重ねても、「失うかもしれない」恐怖は、何度も襲ってくる。



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