蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜



 アグレイスは黙って、彼女の肩を抱いた。


 「君のために戦う。君と選んだ未来のために。……けれど、俺の命は、もう君のものだ。簡単に手放したりしないよ」


 その言葉に、セレナの胸がじんと熱くなった。


 「……それに」


 彼は小さく笑って、額をそっと彼女の額に寄せた。


 「明日を越えたら、約束していた新しい生活が始まる。あれを叶えたいんだ」

 「覚えてたの?」

 「もちろん。“日常を大切にしたい”って言ってくれただろ? 君が望むものを、一つでも多く与えたい。俺はそのために生きたいんだ」


 彼の低く響く声が、セレナの心をやさしく包む。

 涙が一粒、彼女の頬を滑った。
 それは悲しみでも絶望でもなく、確かな「希望」の雫だった。


 「……私、待ってるから。どんな形でも、あなたが戻るのを」

 「ありがとう、セレナ」


 ふたりは静かに唇を重ねた。
 それは、約束であり、祈りであり、誓いそのものだった。



< 165 / 242 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop