蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜



 やがて砦に戻ると、兵たちはそれぞれ眠りにつく準備をしていた。

 その夜、セレナはアグレイスと同じ部屋で、背中を預けるように寄り添い合って眠った。

 彼の胸の音は、ゆっくりとした鼓動を刻んでいた。

 それは、彼がまだ生きている証であり、明日を迎える希望でもあった。


(どうか、夜が明けても、この鼓動が止まっていませんように)


 セレナは、そっと目を閉じた。

 夜が明けた。

 霧が晴れていくように、灰色の空の下にうっすらと陽光が差し込む。
 草に落ちる露が光を弾き、砦の上空には一筋の風が吹き抜けた。

 それは、嵐の前の一瞬の静けさ。
 全てが止まり、空すら息をひそめるような――そんな朝だった。



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