蒼銀の花嫁 〜捨てられ姫は神獣の番〜
砦の中は既に準備を終えた兵たちの気配に満ちていた。
剣を研ぐ音、鎧を締める音、指揮官たちが最後の確認を交わす低い声。
その全てが、迫りくる戦いを示していた。
セレナは、砦の一角に設けられた医療区画の中心に立っていた。
彼女の周囲には、若い医療兵たちが並び立っている。
「落ち着いて。私たちの役目は“恐れないこと”じゃなく、“恐れても動けること”」
セレナの声は強く、澄んでいた。
「どんなに混乱していても、目の前の命を見て。恐怖に飲まれることがあっても、手を止めない。それだけで充分だから」
仲間たちは一人ひとり、深くうなずいた。
かつて怯えていた少女は、今や人々の心に灯をともす存在となっていた。