さよならの勇気～お隣さんはクールで意地悪な産業医～
「私、一人になるのが怖かったんです。彼氏がいたことがなかったから、石黒くんがいなくなったら、誰も私のことを見てくれない気がして。結局、自分に自信がなかったんですよね。私なんて誰も愛してくれないって、自分で自分を卑下していたんです。でも、もうそれやめます。一人でも堂々と生きていける私になります」

　そう口にすると、心がふっと軽くなるのを感じた。
　この部屋からも出ていこう。ここは私には背伸びしすぎた。

「先生、ありがとうございました。この部屋からも引っ越します。私には分不相応な部屋ですから」
「そうですね。それがいいと思います」

　あっさりと先生にそう言われて、少し落ち込む。
　少しぐらい引き止めてくれると思ったのに。

「短い間でしたけど、いろいろお世話になりました」
「一条さん、一つ提案があるのですが」
「何ですか？」
「ルームメイトになりませんか？　僕の部屋3LDKなんですが、一人で暮らすには広くて、実は持て余しています。家賃はなしでいいですから」

　思いがけない誘いに眉を上げて先生を見ると、先生は気まずそうに目を伏せる。そして、まっすぐに私の瞳を見つめた。

「つまり、俺と一緒に暮らして欲しい。君が好きなんだ」

　そう言った先生の顔が僅かに赤くなる。
　まさか先生に告白されるとは思わなかった。

　でも、なんで先生は私を好きになったのだろう？
　先生に嫌われていると思っていたから信じられない。

「あの、私を好きになった理由を聞いてもいいですか？」

　思い切って、質問すると、先生は優しい表情で私を見た。
< 38 / 42 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop