神様はもういない
「まあ、細かいことはどうでもいいか。新しい仕事はどう?」
彼に問われてふと雅也の顔を思い浮かべる。
 新しい仕事。
 新しくできた恋人と一緒に頑張ってるんだけど、なかなか思うようにいかなくて——そんなこと、言えるはずがない。
 胸に確かな罪悪感を覚えながら、テーブルの上のパソコンの蓋を閉じた。
「順調、とまでは言えないけど……頑張ってるよ」
「そっかー。あゆりってなんでも器用にこなすタイプだもんな。どんな仕事でも絶対に手を抜かないし。さすがだな」
「……いや、そんなことないよ」
「そんなことあるって」
 彼はにっこりと笑いながら、再び私の頭にぽんと手を乗せて撫でてきた。
 幽霊なのに、やっぱり温かい……。
 湊の手は、私の身体をすり抜けたりしないんだ。
 それに、幽霊ってもっとおどろおどろしくて恐ろしいものだと思っていた。
 生前と何も変わらない、ひょうきんものの湊の幽霊を見ていると、こんな幽霊もいるのかと驚く。私の中の幽霊のイメージがどんどん崩れ去っていく。
 と同時に、胸に込み上げるのはどうしようもない切なさだった。
「どうしたのあゆり。やっぱり疲れてるだろ?」
 目尻に溜まっていく涙をこぼさないように、必死に指で拭う。
「違うって。埃が舞ってるだけ」
「えー、毎日二回掃除機かけるぐらい綺麗好きなあゆりの部屋に埃なんて舞ってるはずないじゃん」
「いや、埃ぐらいあるよ。もう気にしないで」
 これ以上心配されるのがいやで、突き放すように彼の目をキリリと見つめた。でも、湊は私の鋭い視線を受けても、にっこりと笑っている。
「そうやって強がるところも可愛いんだよな、あゆりは。大丈夫。俺が癒してあげるから」
「〜〜〜!」
声にならない吐息が口から漏れて、咄嗟に赤くなった顔を背ける。
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