神様はもういない
 一生分の涙が枯れるぐらい泣いた。
 左手の薬指にはめていた婚約指輪を握り締めて、わんわん泣いた。
 神様、どうして?
 どうして私から愛するひとを奪ったの?
 私が何をしたっていうの?
 湊が何をしたっていうのよ……!
 誰にぶつけたら良いのか分からない怒りに押しつぶされそうになった。
 交通事故とか、殺人事件とか、そういう類のものだったらまだマシだったかもしれない。犯人に怒りをぶつければいいから。でも雷は……神様が悪いとしかいいようがないじゃん。
『運が悪かったのね……』
 湊の訃報を受けて、会社ではヒソヒソとそんな噂話が聞こえてきた。
 運が悪かった。
 本当にその通りだ。
 でも、どうして“運”なんて、そんな軽い言葉ひとつで、みんなは湊の死を受け入れられるのだろう。
 私はこんなにも深く憤っているのに——。
 抜け殻のような日々を過ごし、暗澹とした気分のまま年が明け、そのまま辞表を出した。
 湊と過ごした会社にはいられない。彼と出会って、大切な思い出があるあの場所にいると、心ごと押しつぶされそうになるから。だから辞めた。同期や先輩たちからは止められたけれど、誰の言葉も耳に入ってこなかった。
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