神様はもういない
「マジ? え、なんで? 俺、何かした? 病気とかじゃなかったよな。交通事故……? いや、轢かれた記憶もないな……。じゃあなんで」
 混乱する彼の姿が、いやでも目に焼きついていく。
 本当は彼のこんな姿を見たくなんてなかった。
 ……愛するひとが、とことん傷つく姿なんか。
「……雷に打たれてしまったの。会社から帰る途中に」
 あの日のことは、忘れたくてもずっと忘れられずにいる。
 同じ会社に勤めていた私と湊は、毎日一緒に帰宅していた。湊は営業部、私は総務部だったから、湊のほうが忙しく、残業が続いていた。私も湊の仕事に合わせて、残業した。でもその日は——年末が近づいているということもあり、いつになく湊は忙しそうだった。
『ごめん、今日はいつ終わるか分かんねえから先帰ってて』
 申し訳なさそうに彼が総務部まで顔を出しにきた。仕事が溜まっているのなら仕方ない。私は、『分かった。雨が激しくなるみたいだからできるだけ早く帰ってね』と伝えた。
 私が外に出たとき、雨は降り始めたばかりだった。だけど、湊は傘を持っているからたいしたことはないと、特に気にも留めなかった。
 それから三時間後。
 夜十時を超える前に、湊は会社を出た——らしい。
 自宅で彼の帰りを待っていた私は、早く帰ってこないかな、と首を長くして待っていた。
 でも……。
 彼はその日、家に帰ってこなかった。 
 代わりに運ばれた病院で、雷に打たれて命を失ったことを知った。
 悔やんでも悔やみきれない。
 もし私が、強引にでも彼と一緒に帰っていたら。湊は雷に打たれて死んでしまうようなことなんてなかったんじゃないだろうか。
 後悔したって意味はないのに。だってこれは神様が決めたこと。神様が、湊の命を奪おうって決めてしまった。神様なんて大嫌いだ。昔から感じていた気持ちがいよいよはち切れんばかりに膨らんで、弾けた。

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