神様はもういない
 湊の身体が次第に震え始めるのを感じて、たまらなくなってまたぎゅっと抱きしめる。
 ブウウン、とどこからともなく聞こえてくる車のエンジン音に、今、湊と二人で思い出の場所にいることを思い起こさせてくれた。
「ずっと謝りたかった。あゆりを、幸せにしてあげられなかったこと……」
 私の耳元で湊が本心をつぶやく。胸がぎゅっと締め付けられて、息が止まりそうになる。
「自分が死んだことに気づいて、取り返しのつかないことをしてしまったんだって思った……。あゆりが落ち込んでいる姿を見て、いてもたってもいられなくなった。本当は俺、死んでからずっとあゆりのそばにいたんだ。でも、ずっとあゆりの世界にいるわけじゃなくて、時々あゆりのそばに出てこられた。だから、記憶も曖昧な部分が多くて、あゆりが新しい恋人をつくってることも知らなかった。でさ……なんで自分が亡霊になって漂っているのかって考えたんだ。俺はきっとずっと、後悔していたんだなって。あゆりを幸せにしてあげられなかったことが悔しくて、謝りたくて仕方がなかった。もう一度抱きしめたかったし、好きだといいたかった」
 その言葉と共に、ぎゅっと私を強く抱きしめる湊。
 彼の体温が、肌の柔らかさが、生前の彼と変わらないのに、心音だけがどうしても聞こえない。鼻の奥がツンと痛くて、涙が一筋こぼれ落ちた。
「あゆり、本当にごめん……! 勝手に死んじまって、ごめん。一生幸せにするって誓ったのに、約束破ってごめん。一人にしてごめん。これからもそばにいられなくて、ごめんな」
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