神様はもういない
 薄暗い景色の中に湊が消えてしまったのを確認すると、踵を返した。
 ここで立ち止まっているわけにはいかない。
 私には待ってくれているひとがいるから。
「湊……」
 湊が最後にふっと笑ってくれたことを胸に、新しい一歩を踏み出す。足を踏み出すごとに、寂しさの鈴が鳴るみたいにとくんと心臓の音が聞こえた。

「雅也、ただいま」
 帰ってきた私を、雅也は「おかえり」と優しく迎えてくれた。
「もう大丈夫?」
「うん。ありがとう」
 雅也は私から多くを聞き出そうとはしなかった。その代わり、私の身体を全身で包み込み、「俺は」と耳元で囁く。
「湊くんを好きなあゆりごと全部、好きでいるから。だから安心して」
 その言葉がどれほど温かく、私の胸を焦がしたか。きっとあなたは知らないでしょうね。
 その日の夜、身体を重ね合わせた私たちは甘い口付けをした。この夜のことを私はこの先きっと一生忘れないだろう。わがままな私を赦してくれるこのひとのことを、全身全霊をかけて愛そうと誓った夜だから。
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