神様はもういない

同居人現る

「ただいま」
 誰もいない自宅に帰り着いたのは、午後八時四十分。あれから二時間残業をして今に至る。
 2LDKの我が家は一人暮らしには持て余す広さで、仕事から帰ってきた私は、いつも物寂しい気分にさせられる。
 半年前まで、この家で暮らしていたもう一人の人物の姿を無意識のうちに探してしまう自分がいて、「いかんいかん」と首を横に振った。
()のことはもう考えないって決めたじゃない。
 頭では分かっている。考えたって仕方のないことなのだ。
 半年前に亡くなった婚約者のことなど——考えるだけ、胸が痛くなるに決まっている。だから今は、目の前の仕事と新たに付き合うことになった雅也のことだけを思っていればいい。
 あのひとのことを頭から振り払うようにして、夕飯をつくる。つくると言っても、疲れて帰ってきた平日はいつも、できあいのお惣菜をチンするか、休日に大量いつくった冷凍おかずを温めるだけだ。今日は帰りにスーパーでおかずを買ってきたから、レトルトのご飯を温めて食卓に並べた。ズボラ飯にもほどがある。でも、今の私にはこれが限界だった。
 味わうこともなく、淡々とおかずを口に運んでいく。心が忙しい時は、ご飯の味がしない。学生の頃からこの現象に見舞われることが多くて、よく()に心配されていた。
——大丈夫? また心配事?
 私のことを本気で気にかけてくれているその双眸は、不安げに揺れていて。その瞳に映る自分の顔は、心配してくれることにほっとしているのが自分でも分かるぐらい、穏やかなものだった。
 ……て、また考えちゃってる。
 今日はいつにも増して彼のことを思い出してしまう自分に辟易としていた。
 せっかく雅也という素敵な彼氏ができたばかりなのに。
 どうしてあのひとのことばかり、考えてしまうんだろう。
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