【コンテスト用シナリオ】等身大クーデター
2話

2話

〇大学の教室内・朝
キャンパス内の広場にある時計前でソワソワとしながら待つ透花。
持っているスマホの画面にはOnstagram(現代日本のイ〇スタグラム。以降オンスタ表記)の「着きました」「オッケー(絵文字と一緒に)。こっちもそろそろ着くよ~」のような短いメッセージのやり取りが映っている。
透花「はぁ……緊張する」ため息

〇回想・男装カフェ『Magical House』の更衣室・夜中
閉店後、更衣室で頭を抱える透花。
それを見かねたキャストが苦笑しながら声を掛ける。
キャスト「やー、あれは正直透のせいじゃないって。眼鏡の人も言ってくれてたけどさ」
透花「いや、だとしても、私がもっと周りを見てれば……っ」
キャスト「出たよ、完璧主義」
透花「それに絶対あれ染みになってますよ……っ、赤ワインだもん」
キャスト「まぁ、服も明るかったしねぇ」
透花「ああぁぁぁあっ」頭抱える
キャスト「てか、その人同じ大学の人だったんでしょ? どうしても気になるってんなら」

〇大学の教室内・朝
キャスト「直接会えばいいじゃん――」※現実に戻りつつ
鞄に触れながらため息を吐く透花。
透花(百合経由で連絡は取れたけど……。昨日の事がなくたってあの人と二人きりは気まずすぎる。用だけ済ませてさっさと――)
死角からひょっこり現れる遊飛
遊飛「やほ、透花ちゃん」
透花「……ッ!」ビクゥッと肩が跳ねる
笑顔で片手を上げる遊飛。
怪訝そうな顔でそれを見る透花。
遊飛「あはは、凄い警戒されてる。呼び出された側のはずなのになぁ」
「そうだ」ハッとする
鞄を漁り、封筒を出す透花。
透花「どうぞ」封筒を差し出す
遊飛「……え?なにこれ」きょとん
透花「昨日のクリーニング代です。昨日はご迷惑をお掛けしました」
遊飛「ええ!? いいっていいって。元を辿れば俺の友達のせいだし」もらえないよ~と両手を振る
ぐいぐい封筒を押し付ける透花と、困っている遊飛。
透花「私が、気にするんです」
遊飛「ええ~……?」
暫く封筒の押し付け合いを繰り返す二人。
遊飛両手を叩く。
遊飛「も~、わかった! じゃあこうしよう」
透花不思議そうな顔。
遊飛、悪戯っぽく笑う。
遊飛「俺のしたいことに付き合ってよ」
透花「はい? 何ですか、急に」
遊飛「そしたらそれ受け取るよ」封筒を指す
透花、不服そうな顔になる。
透花(普通にもらってくれればいいのに)
透花「……わかりました。何に付き合えばいいんですか」
遊飛、校門の方を指す。にっこり笑顔。
遊飛「学校サボろ」
透花「……ハァ!?」ギョッとする

〇ショッピングモール内・昼
ショッピングモールで服や靴を見て回る二人。
自分が気になる物を見たり、女性物の前で透花に話し掛ける遊飛。自分は良いと首を横に振る透花。
いくつかお店を見て回った後、化粧品コーナーへやって来た二人。
透花(どうしてこんなことに……)「クリーニング代渡すだけのつもりが……」とげんなりする
ふと遊飛を見る透花。
真面目に化粧品を見ている遊飛アップ。
透花「先輩、メイクしてますよね」
遊飛「そー。メンズメイク。透花ちゃんは普段はあんまりしない派? 男装カ――」言いかけて、透花が警戒心剥き出しにしていることに気付く。
遊飛「……おーっと。ごめんごめん」
透花「別にいいですよ。……けど、誰かに言ったりするのはやめてください」
遊飛「そう、その口止めされるんだと思ってたのに。会うなりクリーニング代突き出してくるんだもんなぁ」思い出して吹き出す
透花「渡してからするつもりだったんです」
透花、拗ねたように遊飛から目を逸らす。
遊飛が見ていたコンシーラーのコーナーを何となく見る。
透花「コンシーラーですか?」
遊飛「そう。一応ほくろとか消してるから」
透花「え。ほくろ?」遊飛の顔を見る
遊飛「あるよー。ちっさいけど」屈む
眼鏡を取って目元を指す遊飛。目を閉じている。
小さな泣きぼくろがうっすらある。
透花「ほんとだ。全然目立たないですけど」
遊飛「だから一応ね。何となく消しとく方が気にならなくて」
透花「へぇ……」
透花(というか、睫毛長いな……。あんまり気にしてなかったけど、結構綺麗な顔して――)
遊飛、閉じていた目を開ける。目尻が意外と釣り上がっていて、眼鏡がないと少し冷たく厳しそうな印象がある。
至近距離で目が合ってギクリとする透花。
眼鏡を付け直した遊飛、透花を見て首を傾げる。
透花「……先輩って、もしかして目つき悪いですか?」
遊飛「ちょ……っ、いきなりどーゆー暴言!?」
透花(びっくりした……。眼鏡だけであんなに印象変わるんだ……)少しドキドキしている

ゲームセンターに移動。
UFOキャッチャーの前で真剣な顔をする透花。
アームの操作が下手すぎてぬいぐるみが取れない。それを見て大笑いする遊飛。
透花(あれ)
透花、不満気に遊飛をUFOキャッチャーの前へ押しやる。
一発で取れてしまうぬいぐるみ。
驚く透花。それを見て更に笑う遊飛。
透花(なんか)
二人で遊べるリズムゲーム太古の達人(現代日本の太鼓〇達人)へ移動する二人。
荷物籠の中に二人分の荷物と先程取ったぬいぐるみが置かれる。
画面に並ぶ二人。
器用に太鼓を叩く遊飛、隣を盗み見る。
大真面目にあたふたとしている透花を見て笑ってしまう。
透花(思ったより)
負ける度にもう一回と主張する透花。
何度目かの挑戦でようやく勝てると得意げになる透花と、素直過ぎる反応に吹き出しかける遊飛。
それを見て顔を赤くする透花。
透花(……楽しい、かも)

〇ショッピングの外・夕方
ショッピングモールを出た二人。
満足そうに伸びをした遊飛を後ろから見つめる透花(ぬいぐるみを抱いている)。
遊飛「やー、遊んだ遊んだ!」
透花、視線を落として悩む。
透花「あの、先輩は何故わざわざこんな誘いを?」
遊飛「んー、平たく言えば、興味だよ」
透花「興味?」
遊飛「透花ちゃんさぁ、昨日の昼、すっごいつまんなそうな顔してたんだよ」
透花「え」
遊飛「見たことあるんだよね、そーゆー顔」「あ。ねぇ」
思い至ったように笑う遊飛。進行方向を指す。
遊飛「もう一か所だけ、寄ってかない?」

〇海辺・夕方
海へ近づく遊飛。彼の後に続く透花。
遊飛「男装の時の透花ちゃんってさぁ、すっごいキラキラしてたのね」
歩いた先、透花の視界が開ける。
夕日と海を背に目を細めて笑う遊飛。
遊飛「すごいキラキラしてた」
男装キャストとして振る舞う時の透花の回想。楽しそうないきいきとした笑顔。
遊飛「すごく楽しそうでさ、この人昼と別人なんじゃない? って思うくらい」
遊飛、一足先に海へ近づく。
遊飛「そんな子を笑わせられたら、絶対楽しいだろうなぁって、思ったんだよね」
透花、眩しそうに目を細める。
遊飛「やっぱり楽しかったよ。そんで」
一瞬振り返る遊飛。悪戯っぽい笑み。
遊飛「君はもっと楽しそうだったけどね」
透花、息を呑む。
今日一日の出来事が過る。
透花(……そういえば、こんなに遊んだのっていつぶりだっけ)
透花、遊飛の後を追って海へ近づく。
しゃがんで、海に手を伸ばす透花。
透花(冷たくて、気持ちいい)
海を静かに見つめる透花。
口が小さく弧を描く。
透花「先輩」
隣に並んでいた遊飛、透花へ視線を向ける。
透花「ありがとうございます」素直な笑顔
遊飛、驚いた顔
遊飛「……こちらこそ」微笑む。

時間経過
夜になった海辺。遊飛苦笑する。
遊飛「あーあ、いらないのに」封筒を持ってる
透花「約束ですから」満足げ
遊飛、肩を竦める。
遊飛「戻りますか」
透花「はい」
遊飛「あ、透花ちゃん」
振り返る透花。
遊飛「『子供』も悪くないでしょ」
透花、きょとんとする。
透花「何ですか、それ」へにゃりと笑う

〇家・夜
家の前に立つ透花。
透花(……楽しかった。悔しいけど)
遊飛の顔が過り、困った様にぬいぐるみを抱く力が強くなる。
透花モ『楽しかった。気が楽だった』
静かに扉を閉める。リビングから何かが割れる音と悲鳴が聞こえる。
小さく口を開く透花。
リビングをこっそり覗き込む。
割れた皿と、蹲る母。怒鳴りつける父の姿。
透花、顔を曇らせる。
透花モ『だから、少しだけ忘れていた』
こっそりと自室へ戻り、本棚へ向かう透花。
本棚の片隅にある本を取り出し、ページを開くと、こっそり挟んで隠していた通帳が見つかる。
唇を強く噛む透花。
透花モ『こんな気持ちは、続かないのだという事を』
通帳を片手に、ぬいぐるみを強く抱きしめる透花。
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