(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー

7話 りんごを拾った猟師

「あれー、りんごちゃんじゃん! 久しぶりー」
「あ、久しぶりです……」
 私はその日、久しぶりに写真サークルの部室を訪れていた。
 入ってすぐに声をかけられて私はなんとか返事を返す。
 今、しっかり笑えていただろうか。
「最近全然サークル来ないから心配してたよー」
「ご、ごめんね、心配させて」
 今度は別の部員がスマホ片手に声をかけてくる。
 この人は、確かあの時賛同して嗤った一人、よく覚えてる。
「最近も撮ってるの? 風景」
「う、うん、まぁ、一応」
 風景、という言葉に一瞬怯みそうになりながらもなんとか答える。
「そういえば最近、白雪姫と一緒によくいるって聞いたけど」
 もう一人、その場にいた三年生の先輩から白雪くんの名前が出で息を飲みそうになる。
 だけどここで大げさに反応してしまえば話題の格好の的だとなんとか飲み込んだ。
「え、そうなの? よくあんな怖いのと一緒にいれるね、わたしは怖くて無理ー」
「し、白雪くんはそんな悪い人じゃないよ」
 三年生の先輩の彼女が言った言葉につい私はそれを否定してしまう。
 私がとやかく言われる分には構わなくても、関係のない白雪くんがこうして知らないところで悪口を言われるのは、許せなかった。 
「実際どんな人かは知らないけど、そういう噂のある人といるとこっちにまでとばっちり来そうで嫌かなー」
「……」
 だけどそれでも白雪くんに対する周りの反応はそういったものばかりで、つい、黙り込んでしまう。
「っていうか一緒に何してるの?」
「……しゃ、写真撮ってるよ、白雪くんも写真好きみたいで……」
 ここは一応写真サークルだ。
 白雪くんも写真を撮るということを知ればもう少しその嫌な噂を鵜呑みにしないのではないか、偏見で見ないのではないかという一縷の望みを持ってそれを伝えるけど
「え、マジ? あの見た目で?」
「面白いじゃーん、ちょうど今度飲み会あるからさー、連れてきなよ」
「……え」
 それが悪手だったと気付くのにそこまでの時間は必要なかった。
 私はつい、間の抜けた声を漏らしてしまう。
 このサークルの飲み会に、あの場に白雪くんを。
 出来ることなら連れていきたくない。
 それが事実だった。
「写真好きなんでしょ? 良い機会だと思わない? もしかしたらサークル入ってくれるかも、そうしたらサークルの姫の完成ー! なんてな」
「っ……」
 白雪くんの名前を使ったその弄りに内心嫌な気持ちと苛立たし気な気持ちがない交ぜになる。
「場所と日付と時間後で送っとくねー」
 だけどそんなことに気付いた様子もない先輩はそのままスマホを手に取って打ち込み出す始末。
「……私は出れても白雪くんは、予定合わないかも、しれないし……」
「予定合わせてもらって連れてきてよー」
「えっと……」
 ここに居合わせた以上私は行くにしても白雪くんを連れては行きたくない。
 だからなんとか話をそらそうとするけど、それはこの先輩には通じない。
 どうしたらいいのか
「おー、りんごちゃん、こんなところおったん? 教授探しとったでー、ほらあの怒ると怖い教授ー」
 悩んでいる私の肩に手を置いたのは良二さんだった。
 そして私の顔を覗き込んで困ったように眉を寄せながらそんなことを伝えてくる。
「あれ、城野くん、だっけ?」
「あ、どーも先輩方、ってことで悪いんですけど、りんごちゃんお借りしていいです?」
 狭いとはいえ人並みに学生はいる。
 そんな中先輩にすら顔が通じているとは良二さんは顔が広いのだろうか。
 今考えるべきはそんなことではないはずなのに、頭が現実逃避するようにそんなことばかり考えてしまう。
「ああ良いよー、怒られないといいねー」
「ってことで、一緒に行こっかりんごちゃん」
 先輩から快諾を貰った良二さんは私の肩から手を離すとポンッと軽く背中を叩く。
「は、はい……」
 私はそれに押されるように部室を後にした。
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