(マンガシナリオ) 白雪姫は喋らないー口下手な姫くんは怖そうだけど優しいですー

8話 許可出しちゃう猟師

「大丈夫? ちゃんと歩ける?」
「あ、はい、ごめんなさい、その、教授は……」
 サークルの部室を後にした私が良二さんに連れてこられたのは何故か食堂だった。
 早々に座らされた私は良二さんにそう聞くものの
「あんなんその場しのぎの嘘やから気にしないでええで」
 前の席に腰かけた良二さんはそう言いながら笑って手を横に振って見せる。
 それを見てたまたまその場に居合わせた良二さんが気を遣って助けてくれたのだということに気付いて、余計に申し訳なくなる。
「にしても自分めちゃくちゃ居ずらそうやったな、写真サークルに所属してはいるんやろ? なんであんな感じなん? 周りは別に、何か気にしとる様子もなかったけど」
「……そうですね、私が、勝手に気にしてるだけなんです」
 良二さんは私のほうをしっかり見ながらそう聞いてくる。
 そう、周りは何も気にしていない、私がただ勝手に傷付いて、勝手に気にしているだけだから。 
「何かあったんやなー、話してみ、俺が聞いてやるから、こう見えて俺聞き上手やねん」
「本当に、些細なことなので……」
 早々に良二さんは聞く体制を取るというように腕組みをするけどこんなこと話されても困るだけだろうと断ろうとする。
「……あんな、人様からしたら些細なことかもしれんけど、本人からしたら許せへんことなんて歩けば転がっとるくらいにはあるで、話したら、楽になるかもしれんし、ま、無理強いはせんけど」
 だけど、良二さんの言葉は弱った私から本音を聞き出すには充分だった。
「……飲み会の場の空気でですけど、一度、風景写真しか撮らないことを笑われたことがあるんです、もちろん全員が笑ったわけでもないですが、その一件から少しカメラとも遠ざかって、サークルにも顔を出さなくなってました、どうも周りの人と感性が違うみたいに感じるようになって」
 これは、昔から自分の悪い癖だった。
 同じ学校に一年といることのない私はいつだって他人で、その輪に入っていくことが出来ない。
 そして、その輪を諦観して自分とは違う生き物、集団なのだと錯覚する。
 そうすることで自分を守ってきたつけが回ってきたのだ。
 1ヵ所に留まれるようになってもなお、一度弾かれてしまっただけでこの人たちは私とは違う、私の好きを向けている写真とは違うんだって勝手に判断してしまって、そこから這い上がって来れなくなった。
「じゃあなんで今日は行ったん?」
「……白雪くんと話してて、このままじゃダメなのかなーって思って行ってみたんですけど、やっぱりダメですね、飲み会も気乗りしないけど、白雪くんがいれば少しは楽、なの、に……っ……」
 良二さんの聞き上手、というのは本当だったようで、私は元々言う気のなかったことまで口を滑らせてしまう。
 私が勝手に巻き込んだのに白雪くんがいれば、なんてあまりにも自分勝手過ぎる。
「へぇ……」
「い、今のは! なしにしてくださいっ……!」
「なんで? 話聞いとったら姫のせいでもあるやん、だから、責任取らせたらいいねん」
 慌てて手を振る私に何故か良二さんはにやけ顔で声を潜めてそうささやく。
 そして手を叩くと思っても見ないことを笑顔で口にした。
「飲み会、姫連れてったらええやんって、話」
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