勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

1.成人の儀

 魔女はどこにでもいる。
 こっそりと隠れてあなたの隣人として。
 彼女たちが正体を明かすのは、たった一人、心に決めた伴侶だけ。



 これはこの世界にまことしやかにささやかれる言葉だ。
 魔女なんていない? そんな風に思う人は一度考えてみて欲しい。

 目の前の女が魔女かそうでないかなんて、どうやって確かめるのだろう。
 空を飛ぶ? アヤシイ薬を作る? でもそんなもの、いくらでも取り繕うことができる。

 だから、本当のことなんて、分からないのだ。

「ちょっと、クリスタ! あんた、順番が逆よ。ルリトウワタの花はベイリーフの葉の前に入れるの!」

 そんなことを考えていたら、メリ姉に鋭い声で止められた。
 心ここに在らずだったからなのか、こんな簡単な薬の調合も間違えてしまう。

「ご、ごめんなさい」

 メリ姉は派手な見た目の割に魔法薬の名手である。夏の日の夕焼けの空のように鮮やかに波打つ髪を払って、彼女はこう続けた。

「で、あんたどうすんのよ? 期限までもうふた月もないわよ?」

 わざわざメリ姉に言われるまでもなく、そんなことは分かっている。

「考えてるよ、ちゃんと」

 わたしは今度こそ正しい手順で、ルリトウワタの花を入れた後にフラスコにベイリーフの葉を入れて手をかざした。

 すると、フラスコは美しい青色に輝く。これは、花嫁に贈る結婚の祝福のお守りだ。いいなあ。わたしもこんな風になれたらいいのに。

「一体何をそんなにこだわっているのよ。最初の男なんて、誰でもいいじゃない。別に減るもんじゃないんだし」

 いや、絶対に色々と減ると思う。純情とかときめきとか、そういうもの。

「大事なのは最後の男よ」

 メリ姉は腰に手を当てて豊かな胸を見せつけるようにし、そう言い放った。そりゃあ、そんな立派なものがあればそうも言えるだろう。

 わたしは自分の体を見下ろした。対して、こちらにあるのは何とも慎ましやかなあれである。

 最初の男が最後の男になる確率大であるし、なんならその最初の男も存在しないかもしれない。

「あんたが処女も捨てられない落ちこぼれだったら、私達フィオーレ家全員、今年の魔女集会(サバト)で笑い物じゃないの」

 わたしはもうすぐ十八歳で、今まさに成人を迎えんというところである。
 魔女の成人の儀は、誕生日の次の満月までに処女を捧げること。
 そう、何を隠そうわたし――クリスタニア=フィオーレは魔女の家系の生まれなのである。
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