勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

12.申し出

 男の人と二人して街を歩いたことなんてなかった。

 あんなに長身のアルフレッド様が、背の低いわたしに合わせて隣を歩いてくれている。見慣れた風景が、色づいて見えるほどだった。

 惚れ薬を使ったところで、性格が変わるわけではない。現にアルフレッド様の口数は少ない。
 だから、この気遣いはアルフレッド様の生来のものなのだろう。
 きっと、婚約者の方ともこんな風に歩いていたのだろうと思った。

 流行りの喫茶(カフェ)で差し向かいでお茶を飲んだ。わたしにはケーキを勧めてくれたのに、アルフレッド様はブラックのコーヒーしか頼まなかった。

「あの」
「いや、いいんだ。君は、好きなものを頼んでくれ」

 わたしのフルーツサンドよりもきっとここのケーキの方がおいしいだろうに。頼んだケーキを食べている間、アルフレッド様は珍しく頬杖をついて、こちらをずっと見つめていた。

 正直、食べづらいことこの上ない。けれど不思議といやな気分ではなかった。

 ぽつりぽつりと、アルフレッド様は色んな話をしてくれた。
 将来家督を継ぐであろうお兄様をとても尊敬されていること。
 歳の離れた弟君をとても可愛がっておられること。
 毎朝、騎士団の誰よりも早く王宮へ行って一時間訓練していること。

 わたしの知らないアルフレッド様が、そこにいた。
 憧れの騎士様は、確かにこの今生きている人間だったのだ。

 そんな当たり前のことも、わたしは分かっていなかった。

「随分遅くなってしまったな。家まで送ろう」
 辺りが夕闇に包まれた頃、アルフレッド様が言った。

「ここで、大丈夫です」
 何せわたしの家はあの薬局なのだ。魔女だとバレてしまうし、色々とややこしい。

「そうか。ではここで」

 わたしが申し出を断ると、アルフレッド様の青い瞳にきりりとした光が宿った。

「クリスタニア嬢」

 アルフレッド様が、こちらに手を差し出してくる。その手のひらにあったのは、美しいネックレスだった。
 銀の細工の真ん中に、青い石がはまっている。そう、ちょうどアルフレッド様の瞳のような。

「クリスタニア嬢、俺と正式に交際してはくれないだろうか」
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