勘違いで惚れ薬を盛ってしまったら、塩対応の堅物騎士様が豹変しました!

11.花のかんざし

 手を引かれるがままに歩く。けれど、何を話せばいいのか分からない。

「こんにちは、騎士様。お花はいかがですか」

 通りかかったのは花売りだった。抱えたバスケットには、色とりどりの花が咲いている。花売りはわたしの隣に立つアルフレッド様に微笑みかける。

「可愛い彼女さんに、おひとつ」

「そ、そんなんじゃないです!」
 ただ今この時一緒に居るだけで、彼女だなんて。

 アルフレッド様に申し訳が立たないと思ったけれど、見ればアルフレッド様は顎に手をやって真剣に花を選んでいた。

「では、これを頂こう」
 すらりと長い指が、マーガレットの花を一輪取る。そのままアルフレッド様はわたしに向き直った。

 青い目がこちらを捉える。すっと、大きな手がこちらに伸びてくる。
 甘い花の香りと、硬い手の感触が頬を掠める。たったそれだけのことで頬が熱くなるのを感じる。

 かんざしのように、アルフレッド様は花を髪に挿してくれた。

「うふふ、どうぞお幸せに」
 花売りの娘がそう呟くのが聞こえた。

 もしかして、本当にもしかして。奇跡的にわたしとアルフレッド様が恋人同士に見えているとしたら。
 それはどんなにか、幸せなことだろう。

「とてもよく似合っている、クリスタニア嬢」

 そう言って、髪を撫でてくれる指先さえやさしい。心の中にじんわりとあたたかさが広がっていく。
 けれど、一番芯のところが冴えているのも事実だった。

「……気に入らなかったなら、他の花にしよう」

 端整な顔が微かに曇る。わたしはそれに、静かに首を振って応える。

「いいえ、嬉しいです。とっても」

 だってそのためにわたしはあの薬を作ったのだから。
 何も間違っていない。わたしの願いは叶った。ただそれだけだ。
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