FF〜私があなたについた嘘〜
三つ目の嘘

 部室内

ト書き
 夏合宿について幹部達が話し合いをしている。
 一人、誌香が『デカフジ』と名付けられてしまった一年次のことを思い出していた。

柱 大学構内、教室

ト書き
 四月のクラブ勧誘が終わり、誌香はマンドリンクラブを選んだ。クラブのオリエンテーションとなる。
 
ト書き
 一年生が自己紹介していく

ト書き
 誌香の自己紹介タイム

誌香「藤代(ふじしろ) 誌歌(ふみか)です、よろしくお願いします」

ト書き
 パチパチとまばらな拍手

ト書き
 ブンブンの自己紹介タイム

ブンブン「藤倉です! 高校の頃は”フミちゃん”て呼ばれました」

ト書き
 ホワイトボードに大きく”藤倉 文”と書き殴って見せた、元気いっぱいのブンブンに先輩がたは湧いた。

ト書き 
 モブ先輩(気の利かない男)がふむふむと頷いていた。

モブ先輩「決まり! 君はブンブンね。じゃ、そっちのは……」

ト書き
 モブ先輩、誌香を見た。身長と胸への視線に誌香、嫌な予感を抱く

モブ先輩「”デカフジ”な」

ト書き
 会場内、再び沸く。誌香固まる。そんな彼女を見守っている数名

ト書き
 現実に戻る誌香

モノローグ:誌香
 ……イヤだと抵抗する暇も無かった。私達はいきなり『コンビ』にされた。

誌香「あのっ」

モノローグ:誌香
 コンビ名がチビ藤・デカ藤ならともかく、相方は違うニックネームだ。身長も胸もコンプレックスで、いじって欲しくない。

ト書き
 誌香、必死な形相で訴える。
 
誌香「私、”もっと可愛い仇名がいいです。ふみかっちとか”」
モブ先輩「何、デカフジ」
誌香「……」

モノローグ:誌香
 異議は受け取ってもらえず、私は”デカフジ”にされてしまった。



 新歓コンパから数週間経って、教室で女の先輩と誌香一人。楽器をしまっている誌香を女先輩が見つめている

女先輩「誌歌さ」

ト書き
 呼ばれて誌香振り返る

誌香「はい?」
女先輩「もしかしたら、自分が嫌い?」

ト書き
 誌香、かたまる。
 女先輩、同情も憐れみもなく、淡々としている

女先輩「や、なんかさ。猫背になって一生懸命、胸大きいの隠しているみたいだから」

モノローグ:誌香
その通りだった。


ト書き
 小学生の誌香、ほかの子供より大きく胸も大きい。同級生の男から、ジロジロ見られる
 
モノローグ:誌香
 小学生の時から大きくなり始めた胸や身長。
 大人びた顔立ち。

ト書き
 化粧映えしそうな顔立ちをいやらしい目で見る中年男性、おいかけてくる不審者
 痴漢に遭いかけるとか、知らない大人にイヤらしい目で見られるのもしょっちゅうだった。

ト書き
 母に縋って泣きじゃくる誌香

誌香(子供)「なんで私ばっかり」

モノローグ:誌香
 そんな私を、クラスメートはからかった。

小学生(男)「やーい、でか女ー」
小学生(男)「俺の親よりおっぱいでけー」

モノローグ:誌香
 自分がイヤで仕方なかった私は、目立たないように背中を丸めるクセがついていた。
 セクシャルである事が恥ずかしくて、髪も短く切っていたし、だぼっとした服を着て胸を隠していた。
 ”女”だって馬鹿にされないように、勉強もスポーツも頑張った。
 男子がやる事はなんだって、遊びは全部加わるようにしていた。ここ数年は制服以外はスカートを穿いた事もなかった。

ト書き:
 現代

女先輩「誌歌がトランスジェンダーでないなら、女である事を謳歌(おうか)した方が楽しいよ」

ト書き
 誌香、女先輩を不思議そうに見つめる

ト書き
 女先輩、にやりと笑う

女先輩「……まだわかんないかな。でも、せっかくスタイル良く生まれたんだから、アピールしてみなよ」

モノローグ:誌香
 そんなことを言われたのは初めてだった。でも。

誌香「それって、女を売りにして男にコビることですか」

ト書き
 女先輩を睨む誌香、女先輩は苦笑

女先輩「騙されたと思って、まずは背筋を伸ばしてごらん。それに慣れたらスカートを穿いて、ヒールを履いて。口紅も付けてみ。堂々としてる方がからかわれないもんだよ」

ト書き
 女先輩の全身(Tシャツにジーンズ。短い髪にピアス。尻ぽっけにスマホ)

モノローグ:誌香
 先輩は不思議と色っぽい女性だった。彼氏も途切れた事ないし、でも女を武器にした感じではない。力仕事もバンバンするしガハハ笑いする人だったけれど、がさつな人ではなかった。私はその先輩を尊敬していた。

女先輩「羨ましがらせちゃいな」

モノローグ:誌香
 先輩の言葉が後押しをしてくれて、ちぢこまっていた背筋を伸ばそうと思った。

ト書き
 化粧をする誌香。堂々と胸を張って歩く練習。鏡の中の、真っ直ぐに人の目を見つめられるようになった、誌香の強い視線。

モノローグ:誌香
 不思議な事に胸を張っただけで、前向きになれた。真っ直ぐに人の眼を見つめる事も、遠くを見通せるようにもなった。
 それから、恐る恐る私は口紅も付けだして、スカートを着るようになった。

ト書き
 かっこいい女に変身した誌香を、憧れの目で遠巻きするモブ。

モノローグ:誌香
 すると、話す電信柱のようにしか思われていなかった私は、人目を集める存在になった。喋る度に、動く度に注目されるようになった。

ト書き
 現代

モノローグ:誌香
 引っ込み思案になりかけていた私を、日の当たる場所に引っ張りだしてくれた先輩には感謝している。
 確かに、堂々としていた方が居心地がいい事を学んだ。
 女ぽい格好をして、アッハッハと豪快に笑いながら背中を力いっぱい叩いてやれば、人はそれ以上突っ込んでは来ない。
 
ト書き
 夏合宿場所が決定する
 幹部達は解散した
 松本がちらちらと、誌香を見る。内心ビクビクしている誌香

モノローグ:誌香
 だけど、ナカの人は、猫背のまんまだ。私は、嘘をついているのがバレないように努力していた。


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