FF〜私があなたについた嘘〜
四つ目の嘘

 学校の最寄り駅近くの居酒屋

ト書き
 壁面お品がき、テーブルごとに仕切られている一画。男女がテーブルに向かい合って座っている。テーブルには飲みさしのビール瓶、飲みかけのコップ、食べかけの料理皿。

モノローグ:誌香
 ……幹部会の後。何故か、私は松本とサシ飲みをしていた。

松本「バレちゃった前提で話すけど」

ト書き
 真っ赤な松本の顔

モノローグ:誌香
 ……てことは、コイツは私が隠蔽したという疑いを棄てていないのだ。その通りだけど。

誌香「何が?」

モノローグ:誌香
 だけど、私はしらばっくれてみせる。
 私が知ってる限り、松本の知り合いにも”FF”というイニシャルの子は二人しかいない。
 勿論、私とブンブンだ。
 彼女は女の私から見ても可愛くて明るくて、一緒に居たい子だった。

ト書き
 誌香の脳内には、ブンブンが無邪気にはしゃいでる姿
 どんよりと昏い瞳で自分のコップを睨んでいる誌香
 ……に気づいていない、松本

モノローグ:誌香
 ふじしろ ふみか。
 ふじくら ふみ。
 こんなにも名前は似ているのに、なんて違いなんだろう。一方は松本に好かれている。一方はその恋心をぶちまけられている。

ト書き
 テーブルにぐだついている松本をちらりと見る誌香

モノローグ:誌香
 松本はブンブンと私。あるいは他の女の子達もと区別しないでくれた。

ト書き
 練習場作りのため、机をどかす男子に混じって机を運ぶ誌香。他の女子は軽いものを運んでいる。

モノローグ:誌香
 他の女子は力仕事に従事しない事を赦されていた。
 私もしなくても赦されたのかもしれない。だけど、性分で男子と同じだけの事をしなくては気が済まなかった。

ト書き
 重いものを運ぶブンブンに鼻の下を伸ばして近づくモブ達

モノローグ:誌香
 ブンブンも椅子や譜面台を並べていく作業に参加していた。だけど、彼女には誰かしら男子がついて手伝ってあげていた。

ト書き 
 ポツンと独りの誌香

モノローグ:誌香
 私には誰も手伝ってはくれなかった。……ただ一人、松本を覗いては。

ト書き 
 松本が近寄ってきて、誌香の持っていた物を奪う。

松本「無理すんな」

ト書き
 荷物を運ぶ松本に見惚れる誌香

モノローグ:誌香
 それからも松本は事ある毎に私を手伝ってくれた。

ト書き
 遠くにいる松本。ふと目が合う2人。目を逸らした誌香を目で追っている松本
 カレンダーが捲られ、夏がきて、銀杏の葉が降り頻る

モノローグ:誌香
 そんな彼を、気が付くと見つめている時間が多くなっていた。恋しているのだと気が付いたのは、一年の秋位だった。

ト書き
 モブと戯れる松本を見つめる誌香

モノローグ:誌香
 片思いのままで良かった。
 フラれるのは確実だったから、告白なんてする気もなかった。笑い飛ばしてくれれば助かるけど、ギクシャクするのは嫌だった。
 私達は”マブダチ”と言われてる位に仲が良かったから、このポジションをキープ出来るだけでも満足していた筈だった。

ト書き
 真っ暗な中、ポツンと胸の前で両手を握りしめる誌香

 ……なのに。
 私はいつのまにか、松本は自分のオトコなのだと思い込んでしまっていた。

ト書き
 爽やかな笑顔の松本が誌香に話しかけたり、戯れてくる
 呼ばれて遠ざかる松本を見つめる誌香

モノローグ:誌香
 私はバカだ。
 他の女子と分け隔てする事なく、『女子』として扱って貰えたくらいで有頂天になって。
 だけど、今度の事で気づいてしまった。

ト書き
 平気で誌香と肩を抱き合う松本

モノローグ:誌香
 私への態度は他の男子と接する態度とも、全然変わらなかった。
 平気で肩を組んでくるし、一気飲みコールされるし。

ト書き
 現実 居酒屋のテーブル、目の前には松本

モノローグ:誌香
 ……そういうこと、なんだ。
 女子認定されてなかっただけだったんだ。そんな事を三年もわかっていなかった、自分のアホさを呪いたくなる。涙が滲みそうになって、慌てて欠伸をするフリをして誤魔化してみた。

ト書き
 決死の表情の松本

松本「俺」

ト書き
 なにか言いかけた松本を遮り、店員を呼ぶ誌香

誌香「すみませーん、ビール二つっ」

モノローグ:誌香
 こんな処で、ブンブンへの想いを告白しないで。”応援して欲しい”なんて言われたら、どうすればいいの。

松本「ふじ」

モノローグ:誌香
 何も訊きたくない

ト書き
 思いきり、ニコォ……と笑顔を浮かべ煙幕を遥かに誌香

モノローグ:誌香
 松本に喋らせないように、私は陽気に叫んだ。

ト書き
 出鼻をくじかれた松本
 待つほどもなくビールジョッキが二つ運ばれてきた。
 礼を言い、受け取る誌香

誌香「さー今日は、じゃんじゃん飲もうねっ!」

ト書き
 がちん、と松本のジョッキと合わせて乾杯する誌香

モノローグ:誌香
 汗をかいたジョッキを松本に持たせると、無理矢理乾杯をした。それからも、松本が口を開こうとするタイミングを見計らっては、お酒を注文し続けた。
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