FF〜私があなたについた嘘〜
五つ目の嘘

 居酒屋外、飲屋街

ト書き
 ふらふらな誌香、心配げな松本

松本「大丈夫かよ」
誌香「だーいじょーぶ。吐いてきたし」

モノローグ:誌香
 酒瓶が人数分減る事で有名なウチのサークル。他校とのジョイントコンサートを成功させる為にも、幹事になると合コン参加必須だ。しかし、アルハラとアルコール中毒ゼロなのが、創部以来の自慢。

誌香「部訓にもあるじゃない。『酒は飲んでも呑まれるな』って」
松本「……立派に呑まれてるじゃねーか」

モノローグ:誌香
 最初は”ビールなんて苦いもの、飲めない”と涙目だった。
 だけど週イチ以上のペースでジョッキに3杯も4杯も空けていれば、耐性もつく。おまけに、先輩直伝の吐き方を教わってからは、二日酔いをうまくやり過ごせるようになってきた。

誌香「ここら辺がいけないのかなー」
松本「何が」

モノローグ:誌香
 優しい松本は、私の独り言にも返事してくれる。

誌香「ビンからラッパ飲みってさー、やっぱ女子力低いよねえ?」
松本「というより人間力低いだろ」

モノローグ:誌香
 女子は私しか、壜飲みをしない。でも、私よりブンブンの方が酒豪なんだけどな。ウチのサークルの子はみんな強いけど、男子には上手に隠している。

ト書き
 コンパ風景

誌香「最初に『飲めない』って言っておけばよかった」

ト書き
 独り言めいた誌香に、痛みを抑えているような松本

誌香「……今更言っても遅い気はする。『ハア~? 熱あるんじゃねえの? 飲みゃ治るって』て言われるのがオチだよね」

ト書き
 ふらついた誌香を松本が支えようとする。しかし誌香は独りで踏ん張る。

モノローグ:誌香
 今の私は、脚はフラフラ頭は酩酊状態。目盛りで言うと、百パーセント酔っ払いである自覚があった。

誌香「ねー。私のエライ処って、自分が酔っ払いだって自覚がある処だよねー」

ト書き
 上機嫌な誌香。松本が何故かため息をつく

松本「家まで送ってく。……ったく。酒弱いの自覚しろよ」
誌香「知ってたんだ」

モノローグ:誌香
 ビールって気が抜けてから呷ってる。ウーロンハイを頼んだフリして、ウーロン茶ばっかり飲んでいる時もある。

ト書き
 怒ったような松本。ヘラリと笑う誌香

松本「知ってるに決まってるだろ」
誌香「松本がわかってくれているのが、こんなにも嬉しい」

ト書き
 松本が誌香の腕を掴む

松本「送る」
誌香「だいじょーぶ。ほら、私んちバス一本だし」
松本「大丈夫じゃないだろ、酔っ払い」

モノローグ:誌香
 本当は、送って欲しい。……そう言えば。松本が誰かを送ってるの、見たことない。送らない人に、無理やり言わせてしまった。

誌香「ダメダメ。松本んち、私の家と正反対でしょー。終電なくなっちゃう」
松本「だったら泊まらせろよ」

ト書き
 真剣な声の松本
 どきん。
 ときめく誌香

モノローグ:誌香
 男女が一緒の部屋に泊まるってどういう事か。いくら私だってそれくらいは理解している。誘われてるのかな、私もしかしたら、エッチしてくれるのかな。

ト書き
 期待する誌香
 それから冷たい瞳になる

モノローグ:誌香
 ……違う。他のサークルはそういうフラグかもしれないけど。うちのサークルは違う。男女で雑魚寝しても、怪しい雰囲気にはならない。特に私だと。私って、スカートを穿いた男子みたいなポジションだ。だから松本にとっては、浮気でも何でもないだろうけど。

誌香「……私だって、本命が居る男とヤりたくないよ」

モノローグ:誌香
 思った傍から、そんなの嘘だと心が否定してくる。

松本「は?」

ト書き
 きつい目で誌香を睨む松本。そんな彼に気づかない、酩酊状態の誌香

モノローグ:誌香
 松本とキスしたいなぁ。ハグして、エッチしちゃいたい。
 『シようよ』

ト書き
 言葉にしてしまいそうで慌てて口を押さえる誌香。吐くのかと心配そうに彼女を見つめる松本

モノローグ:誌香
 だけど、駄目だ。好きなコが居る松本に、浮気させちゃダメだ。私は絶対に、松本と寝た事をブンブンにばらす。二人の仲を悪くさせて、松本を奪っちゃおうとする。

ト書き
 自分に言い聞かせてから、誌香は明るい表情を作る。

誌香「そぉんな事言っちゃダメ―。松本は、お人よしすぎぃー。私なんて、女の子扱いする必要ないんだからぁ」

ト書き
 松本が怒ったような表情になる

松本「こんなに危なっかしくて、放っておけるか」
誌香「ありがとー、すっごい嬉しいぃー」

ト書き
 松本を見て、ふにゃりと笑う。
 
誌香「だめだめぇー。私と松本なら、”男同士の雑魚寝”だから問題にならないけどさー。それでも”彼女”に誤解されたくないでしょー!」

ト書き
 松本をバシバシ叩く誌香
 松本は不機嫌そうな表情だが、掴んだ彼女の腕を離さない

松本「彼女いねえし」

モノローグ:誌香
 聞こえてきた言葉は二重に私の心臓を痛くさせた。奴がフリーであった事の安心感と、やっぱりブンブンに告白してなくて片思い中なんだという絶望感と。

ト書き
 誌香は松本の腕を振り払い、駆け出した丁度来たバスに飛び乗る

誌香「じゃあねー、またねー」
松本「おいっ」

ト書き
 手を伸ばし掛けた松本の前で、バスの乗降口の扉が閉まった。
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