消えない消せない、僕たちの
 


「……ちょっとコンビニ寄っていい? 何か温かいもの買いたい」

電車に乗るはずだった駅を通り過ぎ、次の駅の手前まで歩いてきたところで私は足を止めた。
さすがに1月下旬の深夜0時過ぎの寒さは尋常ではない。
顔の火照りもとうに引き、手袋をしていても手がかじかむ。
ちょうどコンビニの前まで来たので小幡くんを誘うと、彼も同じ考えだったようで「俺も買う」と二つ返事でついて来てくれた。

「あったかい……天国だ〜」

店内に入ると体の震えが収まり、息がしやすくなった。
自ら進んで便乗しておいてなんだけど、やっぱりこんなに寒い中歩いて帰るもんじゃないな……。

私は迷わずホットドリンクコーナーへ向かい、コーンポタージュの缶を手に取った。
大学でもよく飲んでいる、私の冬の定番だ。
ついでに何か軽食も買おうとぐるりと店内を回っていると——ふと、掲示されていたポスターに目が留まる。

「小幡くん小幡くん、」

レジでホットコーヒーを頼んだ小幡くんはコーヒーマシンの前に立っており、私が手招きするとカップを持ってすぐに側まできてくれた。

「見てこれ、くじ売ってる」

つい先ほど見つけた、子供の頃に流行ったゲームのキャラクターグッズが当たるくじ引きの販促ポスター。
クッションやお皿、メタルチャーム、ステッカーセットなど、景品は様々でどれも可愛い。
すべての賞で何かが当たり、ハズレがない親切設計だ。

このゲームが小学生の頃大好きだった私は、童心がくすぐられる。
思わず小幡くんを呼んでしまったけれど、彼も心惹かれたようでポスターをまじまじと見つめていた。

「へぇ……懐かしいな」
「ね。1回引いてみようかな」

私はそのままレジへ向かい、コーンポタージュとくじを1回分購入した。
店員さんが持ってきてくれた箱からくじを1枚引いてめくってみると、大きな文字でC賞と書かれていた。メタルチャームだ。
いくつか種類があり、中身が見えないパッケージから1つを選んで何が出るかは開けてみてのお楽しみ、というものだった。

「小幡くんも引く?」
「うん、じゃあ俺も1回だけ」

聞いてみたのはダメ元だったが、思っていたより乗り気だった小幡くんも私に続いてくじを1枚購入した。

「……C賞、一緒だ」

小幡くんも中身が見えないパッケージから1つを選び、満足した私たちはコンビニを出る。
天国だったのは束の間。再び冷たい夜風に触れて一瞬にして体が強張ったので、ひとまず出入り口横の軒下に留まりホットドリンクで暖を取ることにした。

コーンポタージュの缶を両手で握り、一口ひとくち大切に飲み込んでいく。
手、口、喉、そして体の中。じんわりと広がっていく温もりが心地良い。
ふぅ、とゆっくり息を吐きながら何の気なしに隣でコーヒーを飲む小幡くんを見上げると、なぜかパチリと目が合った。

その瞬間、頬まで熱くなった気がして。
私はすぐさま目を逸らしてしまった。

……あ、今の、感じ悪かったかも。

「せ、せっかくだから今景品開けてみる?」
「ん? うん」

気まずさを晴らすため何か話題を、と頭をフル回転させ、良いことを思いつく。そうだ、そもそも話題作りのためにこれを買ったのだ。
会計の後一度バッグにしまっていたくじの景品を取り出し、温まった指でパッケージの封を破る。
小幡くんもボディバッグに押し込んでいた景品を取り出してくれ、お互いにパッケージの中身を見せ合った。

「……あ、」
「一緒だ」

星型の枠の中でポーズを決める、一番好きなキャラクターのチャーム。
小幡くんと私の手にそれぞれ乗っているものは、星の形もキャラクターのポーズも表情も、まったくの瓜二つだった。
私たちは目を見合わせ、思わず声を出して笑う。

——すごい。まるで、

「え〜めっちゃ偶然! 結構種類あったのにね」
「ほんとすごい……なんか、あの頃思い出すな」
「あの頃?」
「小学生の頃」

——まるで、あの頃みたいだ。

「……っ、」

小幡くんが口にした一言と、今この瞬間自分が感じたことが重なり、言葉に詰まった。

「……ごめん。覚えてないか」
「あ、いや……ううん、覚えてるよ」

……あぁ、やっぱりそうだよね。思っていた通り。
私が覚えているなら、きっと彼も覚えている。

だって彼はずっと変わらない。
冷静で、聡くて、気遣い屋で。
だから私は、彼ともう一度関わることが少し怖かった。
どうしていいか、わからなかったのだ。
 
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