進路指導室で、愛を叫んで

運命の人は桜吹雪の中に

 俺、須藤小春が運命の人を見つけたのは、高校の中庭だった。


 入学式の翌々日で、部活説明会の翌朝。

 園芸同好会の活動場所が中庭だと聞いて、朝いちばんに向かった。

 桜が舞う中庭で、色とりどりのチューリップやビオラに水をあげている小柄な人影が見えた。

 説明会のときに園芸同好会の説明をしていた三年生の……たしか、藤宮先輩。

 風にふわりと広がるセーラー服に、さらさらと揺れる黒髪。

 息を呑むほど綺麗な光景のなかで、俺の足音に振り向いたその人が、いちばん綺麗だった。



「……一年生?」

「っ、あ、はいっ!一年生の須藤小春です。……あの、園芸同好会の見学に来ました」

「ああ、そういうこと。ようこそ、園芸同好会へ。……といっても、会員は私だけなんだけど。三年生の藤宮です」



 大きなジョウロを両手で抱えて、先輩はにっこり微笑んだ。


「けっ……えっと、すみません。その……入部って、どうすればいいですか?」


 勢いで「結婚してください!」って言いそうになって、あわててごまかした。

 先輩は嬉しそうな顔で、頷いた。


「入部届を顧問の先生に出してもらえれば大丈夫。生物の美園先生って知ってる?」

「あ、はい。知ってます。出しておきます。……あの、放課後も藤宮先輩はここにいますか?」


 尋ねると、先輩は首をこてんとかしげた。

 その拍子にジョウロが傾いて、水がばしゃっとこぼれる。

 駆け寄ってジョウロを支えると、先輩は思ったより小柄で、華奢で、手を添えていないと折れてしまいそうだった。



「あわ……ありがとう。えっと、日によるかな。でも、君が来るなら……今日は放課後、ここで待ってるよ」

「わかりました。あの、先輩の下の名前、教えてください」

「とうこ。桐箪笥の桐に、子供の子で、桐子」

「綺麗な名前ですね。先輩にすごく似合ってます」

「えっ……?」

「藤宮先輩。俺、こんなに綺麗な人、初めて見ました。放課後、また会えるの楽しみにしてます。……じゃあ、手、離しますね」

「え、ちょ……、う、うん……?」


 そっとジョウロから手を離して、中庭を後にする。
 吸いこんだ空気が、さっきまでよりずっと澄んでいて、美味しく感じた。
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